第5話 反吐

「あれ? おかしいですね、この布どうなっているのでしょう?」


 おかしいのは明らかに布のほうじゃなかった。


 無意識に、これまでいじょうの距離をとる。


 それでも臭った。


「仕方ありませんね」


 そう言うと、少女は床に這いつくばり、液体を口ですすりだす。


 点々と続いていた液体をくまなくたどっていった。


 どうじに、はらわたが後から続いて、通路に新しい汚れを作っていく。


「……ちょっと、……ちょっぉおすとぉー」


 二回目の叫び方は薩摩示現流の掛け声にそっくりだった。


「はい?」


 そう返しながら、振り返った少女の顔からは舌がテヘッと出ている。


 鼻をつまんだまま、思わず、見入った。


 とりあえず掃除をひと段落させると、どうやって部屋にあげるべきか考えた。


 このままでは確実に部屋は腐海に沈む。


 触れたものが腐らないように、意識的に制御できないものか尋ねてみる。


「あのー、その腐食能力? コロージョンスキル? どうにかならないの?」


 なにいってんだこいつ、と少女は不可解さ全開の表情。


「ほら、さっき布がボロボロになったやつ」


「あれは、偶々たまたまです」


 こちらからも何言ってんだこいつ返しをお見舞いする。


 効果のほどは……ほとんどなかった。


「実際に、床に触れたところはどうにもなっていませんよね?」


 おっしゃる通り、結果、鼻をつまむように扱われる。

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