砂漠の砂と砂漠の関係について(わたくしの有用性に言及して)(独白)
わたくしはただ、浮遊とも落下ともつかぬ状況で、日々、深淵をのぞいていたのです。
それにはこういう訳がありました。
二、三日前の事でしょうか、記憶が甚だしく、著しく、そして、このように抜け落ちてしまっている為、ひょっとすると、明日の事だったのかもしれません。
そういう訳で、わたくしはただ、その、白い浜を歩いていたのです。
ええ、わかっていますとも。それは或る、今にも雨が降り出しそうな晴天の日でした。春、だったと記憶しています。
こちらの方々は、何と呼んでいるのでしょうか。わたくしにはわかりかねますが、その、それが、突然、ああ、何と申し上げたらよいのでしょうか。わたくしどもの言葉では表現できないような、その、有様、とでも申しましょうか。とにかく、それは突然やってきたのです。
先ほどは春、と申し上げましたが、春、ではないですね。春と夏の間のような、夏とも言い難い春の日のような。ええ、そうでしたね。
そうして、いいですか、そうして、不誠実のような誠実であり、誠実のような不誠実がひょっこりと顔を出したのです。あなた方もご存じでしょう。ええ、それですよ。
わたくしはただ、ただただ、不誠実な誠実、もとい、誠実な不誠実から逃げるべく、ソレを凝視しました。そうすると段々、段々と、ええ、このように、そうですね、このようなわたくしになってしまったのです。
「良くない事」というのは良くない事であるからして、「良くない事」は良くないのです。わたくしはそれを見て思いました。
わたくしをこの様にした、それを、わたくしは、ああ、無惨にも、慈悲すら無く、見殺しにしてしまったのです。あなた方におわかり頂けるでしょうか。わたくしは殺してしまったのです。
良いですか、よく聞いて下さい。
わたくしが話したことは、決して漏らしてはいけません。わたくしは殺してしまったのです。その、あれを。
良くない事は良くない事ですが、良くない事は悪い事ではありません。いいですか。わたくしは良くない事は致しましたが、決して、悪い事なぞしておりません。懺悔でも自己防衛でもありません。わたくしはただ、そう、ただ、逃げるために、わたくしを守るために、見殺しにしたまでなのです。
そうです。二、三日前の出来事です。そうです。あなた方もご存じのはずです。
ああ、ご存じじゃあない。そうですか。では、あなたは、それ、ではないのですね。
ええ、捜しているのですよ。それを。
一度、きちんと、わたくしの懺悔を、嘘だらけの不誠実な懺悔を、とおもいまして。ご存じじゃあない。そうですか。失礼いたしました。
ええ、そうです。わたくしはただ、浮遊とも落下ともつかぬ状況で、日々、深淵をのぞいていたのです。それだけなのです。
わたくしは、何も悪くありません。
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