【永池家〈2〉】
「おかえり」
「ただいま」
「永池の者には驚いただろう?」
「えっ・・・・あ、うん・・・・」
リビングに入るとソファーに座っていた父が、さも当たり前のように私に言った。
永池の者──いかにも慣れた言い回しだ。
「まあ座りなさい」
「はい」
うながされるままに父の向かいに腰を下ろすと母も父の横に座った。
テーブルの上には半紙半分くらいの大きさの、何やら古そうな厚紙が置かれている。
「お父さん、あの・・・・」
「何だ?」
「その、永池さんのことだけど──」
「ああ、まあこれから話すから、まずはこれを見なさい」
「?」
何? と思う私に、父がテーブルの上の物を指し示した。
それは単なる厚紙ではなく見開きになっている物だった。
開いて見るとそれは白黒の、一目でそうとう経年していることが分かる古い写真が1枚納められており、何かの記念らしき集合写真でパッと見で50人くらいが雛壇に並び写っている。
皆、着物で表情も硬くいかにも昔の写真といった感じだ。
「これは?」
「中央から向かって右半分が
「え、そうなの?」
「明治8年の写真だ」
「明治8年!?」
「むろんそこに写る皆々はすでにこの世の人ではないが・・・・前列中央の2人をよく見てみなさい」
「前列?」
言われて目をやると、そこには白黒でもわかる華やかな柄の振り袖を着た若い女性と、少し落ち着いた柄の振り袖を着た同じくらいの若い女性が写っている。
「この人たちは誰?」
「分からないか?」
「?」
父の言わんとする意味がつかめず、私は首をひねった。
向かって右半分が松埜家、左半分が永池家と父は言った。
ということは右側の華やかな振り袖の女性は松埜家の人物、左側の女性は永池家の人物ということになる。
そこまでは間違いないとは思うものの、それ以上に何があるのかが分からない。
白黒の、輪郭もぼんやりとしたこの古い写真は一体──
「ちょっと待ってて」
ふいに母が立ち上がりキッチンに向かうと引き出しから何かを出し、すぐに戻り私にそれを差し出した。
「虫眼鏡?」
「それでよく見てみて」
「? うん・・・・」
拡大して見ることで、何が一体 ──
「えっ・・・・嘘・・・・これって・・・・」
「分かるだろう?」
「分かるでしょう?」
「ち、ちょっと待って・・・・」
虫眼鏡で拡大された前列中央の2人の振り袖女性たち。
硬い無表情で前方を凝視するように写っているその若い女性たちの顔──それは紛れもなく私と愛美だった。
似ているという表現では語弊があるほどの酷似。
間違いなく私と愛美。
決して目の錯覚などではない。
「これ・・・・どういうこと?」
当然の問いが口から出た。
納得の出来る答えへの期待を込めながら。
が──
「右は
華乃子、美鈴。
今の自分と愛美と1文字かぶったその名前。
そして2人とも18歳・・・・まさか──
「
「!?」
父の放った言葉の衝撃。
私はまばたきを忘れ、言葉も失った。
もしかしたら、まさか・・・・と、うっすらながら重い予感が父の口から断定として語られた驚き。
生まれ変わり?
私と愛美が?
明治8年の写真に写る振り袖姿の2人の?
生まれ変わり?!
すぐには飲み込めない消化出来ないその言葉が脳裏で乱れるように渦を巻いた。
と同時に、松埜家と永池家との結び付きが想像以上に尋常ではないものなのだという実感も、心のどこかから沸き上がってくるのを私は感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます