【永池愛美の正体〈1〉】
1時限が終わる時刻寸前、田端裕美を医務室に運んだ教師の俣野と学級委員の貴島涼子の2人が教室に戻った。
どうやら田端裕美は意識を取り戻し状態も落ち着いたらしい。
母親が迎えに来るとのことで、報告を受けたクラス内にも安堵の空気が流れた。
けれど私の気持ちは晴れない。
むしろ重くなる一方だ。
【 松埜さん、とんでもないものが憑いてるね 】
彼女は── 一体、何者?
────────────────────────
チャイムが鳴り休み時間が始まった瞬間、私は前方の席の愛美に目をやった。
すると彼女はスッと立ち上がり、彫像のアルカイックスマイルのような微笑でこちらに向かって歩いて来る。
(え・・・・何?)
思わず身構える。
思惑が読めないその表情が不気味に見える。
(何なの?)
私の怪訝な気持ちをよそに、目の前まで来ると愛美はまた1枚、メモを差し出した。
やはり2つ折のノートの切れ端。
面喰らう私が手を出さずにいると彼女は机にそれをポイと置き、「よろしくね」と一言だけ言い、また自分の席へと戻って行った。
よろしくね、とは?
あんな──私にとっては──空恐ろしい文のメモのあとにまたもう1枚・・・・目的は何?
疑念が深まり新たに置かれたそのメモの内容を見る勇気が沸いて来ない。
とはいえ、見ないでいるわけにもいかない。
彼女の思惑を知るためにも・・・・。
私は思いきってそれを手に取った。
(なっ・・・・)
開いた瞬間、目に飛び込んだ文章。
再び私は固まった。
【 その
裏神?
その裏神?
裏神──まさか〈おのろし様〉のことを言っている?
私の全身に緊張が走った。
同時に変な汗が額に浮かんでくる。
門外不出、絶対他言無用の存在である
だとしたら──永池愛美、一体・・・・何者!??
混乱する気持ちのまま、私はメモをきつく握りしめた。
────────────────────────
「ついて来て」
就業のチャイムが鳴り終わるやいなや、愛美は真っ直ぐ私の元にやって来た。
そしてこちらの意思を確認することもなく、当然のようにそう言った。
やけに白い肌と切れ長の目、常に
そして淡々とした低めの声と小柄な身体──
まさに日本人形のような容姿の彼女。
その神秘性さえ感じさせる愛美には気安く人を寄せ付けない雰囲気がある。
「掃除当番じゃないでしょ?」
「・・・・うん」
「じゃ、来て」
「・・・・」
有無を言わさない彼女の言葉の圧に押され、仕方なく私は緩慢な動きで立ち上がった。
なぜ従ってしまうのか──妙な引力に
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