【驚愕】
何だろう?
1時限目の数学の授業が始まってしばらくしてから、田端裕美が私の方をチラチラ見てきてる。
さっき頼んだ
「じゃ、この問題を──田端、前に出て解いてみてくれ」
数学教師の
「ん? 田端? どうした?」
「・・・・」
「田端?」
「・・・・あ、はいっ」
「何だ? ボーッとして。具合でも悪いのか?」
「え・・・・いえ、大丈夫です」
「そうか、じゃ、これやってみて」
「はい・・・・」
どうも様子がおかしい。
私は少し上目遣い気味に、おもむろに立ち上がった彼女を見上げた。
一瞬、目が合う。
その瞬間、彼女は「ひっ」とひきつった声を発し、その場に前のめりに倒れ込んだ。
「うわっ、何っ」
前の席の生徒がいきなり背中にのし掛かった重みに驚愕の声を上げた。
騒然とする教室内。
「田端っ、おいっ」
教師の俣野が足早に駆けつける。
そして前の席の生徒に覆い被さる彼女を後ろから抱え、いったん席に座らせようとした。
その時、力なくうなだれた頭がガクンと上を向いた。
「わっ」
「きゃっ」
「ああっ」
「えっ」
目にした者から恐怖にも似た声が口々に上がった。
「どうしたっ、しっかりしろっ」
教師の俣野の呼び掛けにもまったく無反応の彼女。
白目を剥き半開きの口から吹き出る泡──田端裕美は危険な様子で気を失っていた。
「まずいっ、医務室に運ぼう」
まだ30代半ばで大柄な俣野が姫様抱っこで抱え、「誰か1人、ついてきてくれ!」と呼び掛けた。
「あ、私が行きます!」
「よし。じゃ、他の皆は自習しているように!」
学級委員の
騒然としたままの室内の雰囲気の中、私は胸の動悸と動揺をおさえることが出来ずにいた。
(田端さん・・・・私を見て驚いてた・・・・どうして・・・・)
授業が始まってから何回か彼女の視線は感じていた。
何か? と思い私が顔を向けるとフッと
怪訝には思うものの、授業中ということで声を掛けることは出来ないままでいた末の彼女の昏倒。
立ち上がった瞬間、私と目が合った時の彼女の小さな悲鳴の様な声と驚きに満ちたあの目──泡を吹いて倒れるほどの衝撃を一体、私の何が与えたというのだろう。
そんな・・・まさか──
「ねえ」
うつむいて思案に暮れる私の目の前、開いたノートの上に二つ折の小さなメモがスッと置かれた。
顔を上げると机の横に
席も離れておりあまり話したこともないクラスメートである愛美の唐突な行動に、私は戸惑った。
「それ、見てね」
「え・・・・」
言うなり前方の自分の席へと戻って行く背中を見ながら首をひねる思いがしたが、とりあえず私はそのメモを手に取り開いてみた。
「!?」
瞬間、息が止まった。
同時に動悸が激しさを増す。
(どう・・・・して・・・・)
ノートの切れはしとおぼしきそのメモに書かれていた言葉──
【 松埜さん、とんでもないものが憑いてるね 】
私の心身は一瞬にして硬直した。
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