【異なる姿】
異様な安堵と喜びようの両親とともに家に入り、母の手を借り着物から部屋着に着替えてリビングに行くと、父が温かいココアを作り待っていた。
時刻は朝の5時を過ぎたところだ。
「まあ座りなさい」
「ありがとう」
「うむ。ところで、その──」
「中での話?」
「まあ・・・・そうだ」
たぶん父は、もちろん母も詳しく聞きたいのだろうと察し、私は中に入ってからのことを偽りなくすべて話して聞かせた。
不思議な明かり、赤い座椅子、寝落ち、目覚め、身を包むモヤ、そして〈美しい天女〉と背景の風景、言われた言葉──
ただそのままを口に出した。
「名を、ちゃんと華蘭の名を呼んで下さったのだね?」
「うん」
「それから『よろしい』と」
「そう」
そこを重ねて確認すると、父はそれまで黙って聞いていた母に向けて言った。
「おのろし様が認めて下さった。恭次郎の邪気の御許しだけでなく華蘭のことを認めて下さった。これほど喜ばしい
「ええ・・・・ええ・・・・」
見れば母は大粒の涙を流しながら感動しているように小刻みに身を震わせている。
「あの・・・・お父さん、お母さん」
「何だ?」
「何?」
2人の声が重なる。
私だけが訳も分からず取り残されている状況の中、聞いても『まだ18歳前だから』でかわされるに違いないとは思いつつ、それでも止められない気持ちが先に立ち、頭の中の問いがつい口をついて出た。
「おのろし様ってこの世のものではないんでしょう? まるで違う世界に連れていかれたような感じだったし。一体どういう存在なの? 何故この家に居るの? よろしい、って何? どういう意味なの?」
止まらない言葉が立て続けて自分の口から出たあと、ハッとして2人を見ると、父も母も仮面のような無表情で私を見つめている。
今さっきまでとはまるで別人のようだ。
私は思わず身を固くした。
「華蘭が見た存在は〈おのろし様〉で間違いはない。そして天女のような御姿で現れて下さったということは華蘭をこの家の跡取りと認めて下さったということ。そして今回の恭次郎の掟破りの不始末を華蘭に免じて御許し下さりお怒りを鎮めて下さったったということだ。もし、現れた方がそのような美しい御姿ではなく違っていた場合は──」
父はそこで言葉を切り、無言になった。
数秒の沈黙が続き、私は次の言葉を待てず口を開いた。
「違っていた場合は・・・・どうなの? どうだったの?」
「・・・・」
「お父さん!」
「・・・・我々は・・・・この
「えっ?!」
終わり、という言葉の絶望感に驚き、私は背中に一気に寒気が走るのを感じた。
そしてさらに続いた母の言葉に私は恐怖した。
「命は無かった・・・・華蘭も私たちも・・・・」
「そ・・・・んな・・・・」
天女ではない別の何かが現れていたなら──死!?
母のまさかの言葉に呆然とした私は、一向におさまらない寒気を感じながら意味なくココアを見つめていた。
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