【篤次さん】
「
部屋から見た蔵の破損が気になり母と外に出たところで、父方の叔父である
父のすぐ下の弟だ。
「私、ちょっと見てきますから」
そう言い、母が蔵の方へ小走りに向かった。
「叔父さん、私──」
「ああ、急で驚いたろ?」
「うん。
この叔父には子供の頃からよく遊んでもらい、気も合い、接していると不思議と安らぐものがある。
40代半ばの今まで独身でいるせいか気が若いのもあるのかもしれない。
筋トレと登山が趣味でガタイが良く、冬の北アルプスを単独で縦走するような一族きっての体力自慢だ。
「そりゃニュースにはならないよ」
「え、じゃ、お母さんの話は本当なの? この
「そうだよ、その通り」
「だって・・・・そんなのおかしい、変でしょ?」
「華蘭ちゃん」
「?」
「震源地はね、あそこ。おのろし様の蔵だよ」
「!」
「禁忌を破った奴がいたからね、お怒りになったんだ」
「・・・・恭次郎君?」
「ああ、聞いた? そうだよ。とんでもないよ」
「叔父さん」
「ん?」
「おのろし様って・・・・人間?」
私はこの問いの答えをこの叔父ならば明かしてくれるのではないか、という淡い期待を含めて口にした。
すると叔父はほんの一瞬、視線を泳がせたあと私の目を見て言った。
「
「四神?」
「玄武、青龍、朱雀、白虎」
「あ、それは分かる。四つの方位を
神様でしょ?」
「そう」
「それがどうしたの?」
「
「え?」
「まだ・・・・知らないよね」
「裏四神・・・・分からない」
「だよね」
「何なの?」
「この世を表から
瞬間、脳裏に母の言葉がよぎった。
『あの御方は裏歴史の大事な御方』
裏歴史と裏四神。
私の中で何かがカチリと音を立てた。
「おのろし様は裏の神様・・・・」
「ま、この叔父さんから話せることはここまで。これから皆で蔵の修繕に取り掛かるから、華蘭ちゃんは夕方まで身体を休めておきなね」
そう言うと私の肩をポンポンと軽く叩き、立ち去りかけた。
「あのっ」
「ん? 何?」
「恭次郎君のお葬式は?」
「葬式?」
「うん、いつするの? 今どこに安置されてるの?」
まだ彼の遺体に対面をしていない私はごく普通の問いとして尋ねた。
が──
「もういないよ、ここには」
「えっ」
「もういない」
「どこに・・・・行ったの?」
「さあ」
「・・・・」
これ以上は聞くな!
叔父の目に明らかな嫌悪と拒絶が浮かんでいるのが見て取れた。
それは昔からよく私を可愛がってくれた情深い眼差しとは対極の、冷たく沈んだものだった。
触れてはいけない、踏み込んではいけないことなのだと感じ、歩き出した叔父の背中を私は無言で見送った。
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