第22.5話ある精霊の後悔

 大人の男に囲まれ襲われかけたがそれを返り討ちにした事を、アミィはとても誇らしそうに語った。

 果実水ジュースや氷菓子がとても美味しかったから後でシルフにも買ってあげるね、と楽しそうに笑っていた。

 更には新たな友達も出来たと嬉しそうに話していた。


 ────すっっっごく面白くない。

 ボクがいない時に限ってどうしてそんな目に遭うのかな。いやボクがいたところで大した事は出来ないんだけども。


 的確な判断で敵を制圧したと言えば聞こえは良いけれど、ボクとしては可能な限り危険な事はして欲しくなかった。


 というか新たな友達って何、怪しくない? 一人ぼっちの女の子に心配だから声かけるってちょっと怪しすぎると思う。絶対裏があるって。


 人間は裏表の激しい種族なんだから、そう簡単に他人を信用しちゃいけないってハイラからも散々言われてたのに。

 頭は良いのに、全然あの子は分かってない!

 普通は初対面の男と仲良くなったりしない。もっと他人を疑うべきだと言っても、絶対にあの子は『大丈夫だよ、いい人だから!』と言って軽く受け流す事だろう。

 せめてボクが傍にいれば。そしたら謎の男を見定める事が出来たのに。

 そもそも、ボクが一時的にアミィの傍を離れたのは──……完全に不測の事態であった。



♢♢♢♢



 アミィが果実水ジュースとやらをボクにも分けてくれたので、果実水ジュース端末ねこが舌を伸ばした瞬間。


「いいの? じゃあ貰──っ!?」


 このボク・・・・の部屋の扉をノックも無しに開く者が、現れた。


「──なぁなぁ、ちょっと仕事の話があるんやけどぉ」


 空色の髪を肩で切り揃えた露出狂が、気の抜けた口調と共にズカズカと押し入って来たのだ。


「おまっ、ちょっと何勝手にッ」


 それを追い出そうと急いで立ち上がり、その勢いで音声を切断した。

 アミィに聞かれたら不味い事もあるからね。


「部屋に入るぐらいええやん別に〜〜。そない神経質ならはってぇ、なんか気ぃ悪い事でもおうたんです?」


 壁際まで追い込むと、ハノルメは軽薄な面に無様な冷や汗を浮かべた。


「なんだ、死にたいならそう言えよ。星にしてやるから」

「あかんわ、今日はごっつご機嫌ななめさんやこのヒト」

「お前が勝手に部屋に入って来たからだけどな」


 ボクが一睨みすると、ハノルメは「ほんまごめんやん……ちゃんと仕事の話しに来たんやって」と慌てて紙の束を手渡して来た。

 それを受け取り、束に視線を落とす。そこには──制約の破棄に必要な名簿・・が書かれていた。

 制約の破棄には全属性の最上位精霊の同意が不可欠であり、ハノルメにはその同意を取ってくるよう仕事を命じていたのだ。


「……現時点で制約の破棄に同意した最上位精霊は──たったの二十三体? は、ボクが懇々と説明してやったのに賛同しないとか舐めてるの?」

「そう怒らんたってや。十一体はまだ決めかねてるってとこみたいなんよ。まぁ、五体は反対やー言うとるけど」


 署名には制約の破棄に同意を示した最上位精霊達の名が連ねられている。

 無回答はまだいい。今後同意を得れば良いだけだ。──だが反対は駄目だ。何としてでも説得せねばならない。


「その五体はどれなんだよ」

「えーっとな、エレノラシッカーロマンスドマリネゲランディオールやな」


 よりにもよってこの五体か、とボクは頭を抱えた。

 一言で言い表すと──全員凄く面倒なのだ。面倒じゃない最上位精霊なんて片手で数えられる程しかいないが、コイツ等は中でも飛び抜けてヤバい。

 そんな連中を説得するなんて。もう既に気が遠くなっているのだが──……これも制約の破棄の為だ。我慢して説得に向かおう。


 アミィの事を待たせてしまっているけれど、ボクが不在のほんの少しの間に何か起きる訳がない。だからきっと、大丈夫だ。


「とりあえずゲランディオールの所に行くよ、ハノルメ」

「あいあいさ〜〜」


 ハノルメを連れて反対意見の最上位精霊の元へと急ぐ。アイツ等とて脅せば話せば分かってくれるだろう。

 だからすぐ終われる。一秒でも早くアミィの元に戻る為にも、さっさと用事を済ませよう。



♢♢♢♢



 ──そう決意して説得に行ったのに。

 どいつもこいつも想像以上に頑固で、時間がかかってありゃしない。

 しかもまさか、起こる訳が無い。と高を括っていた事件が起きていたなんて。

 本当に、これからはなるべくアミィの傍を離れ過ぎないようにしないと!

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