第22話初外出で厄介事とは。5
「リンデア教の司祭だなんて凄いですね!」
「いやいや、修行が面倒で逃げ出したような僕が凄い訳ないだろう?」
私が身を乗り出して騒いでいると、リードさんは恥ずかしそうに否定した。
しばらく話をしているうちに、リードさんがリンデア教に名を連ねる司祭だと判明したのだ。
司祭なんてなろうと思ってもなれるものじゃない。それだけ、リードさんが努力を繰り返したという証そのもの。
尊敬の眼差しを向けていると、リードさんは気恥しそうに目を逸らし、
「先程から気になっていたんだが、その剣と猫についてそろそろ触れてもいいかな?」
強引に話題を変えた。
「ふふふ、よくぞ聞いてくれました! 私の愛剣と、友達の猫さんです!!」
「は、はぁ……友達……?」
どうだ! いいでしょ! と自信満々にお見せする。
リードさんは唖然とした様子で固まり程なくして、
「──まあ、うん。友情に性別や年齢や種族は関係無いと僕も思う。そこで提案なんだけど……スミレちゃんさえ良ければ、僕とも友達になってくれないかな?」
慈愛に満ちた暖かい瞳で柔らかく微笑んだ。
どっ、同情されてるぅ────ッ!
真正面から向けられた純粋な憐憫に、心にグサグサと槍が刺さる。
「うっ……ありがとう、ございます。こちらこそ……よろしくお願い、します……っ!!」
小さく声を震わせて感謝を告げる。
しおしおと優しいお兄さんに慰められていると、近くのテーブルで食事をする男達の話がやけに耳に届いた。
「なぁ聞いたか? あのマイク達が道端でボロボロになってたらしいぞ」
「あいつ等相当恨み買ってただろうからな、因果応報ってヤツだな」
「それもそうだな、ざまァないぜ」
気がついたら、私はその会話に聞き耳を立てていた。
こんなのただの勘なのだが、彼等の話すマイク達とやらは先程制圧したあの男達だろう。
相当恨みを買っていた──つまり、これまでも誰かが苦しみ、今もなおどこかで誰かが傷つき、これからも誰かが悲しむ可能性が高い。
そんなの、許せる訳がない。
屑野郎共の身勝手な欲望で、無辜の女の子達がその人生も尊厳も奪われたんだ。絶対に、許してなるものか。
何がなんでも──……諸悪の根源を排除しないと。
「スミレちゃん、どうしたの? そんなに険しい顔して」
リードさんが心配そうにこちらを覗き込んでくる。どうやら、奴隷商への怒りがそのまま顔に出ていたらしい。
「……なんでもありません。ちょっと気分が悪くて」
とりあえず笑顔を張りつけ、心配かけまいとする。
そして、
善は急げと言う。ケイリオルさんに任せてその対処を待っているんじゃ遅い。一刻も早く助けに行かないと!
「私はそろそろ帰りますね。代金は本当にお任せしてもよろしいのでしょうか」
「あぁ、勿論だとも。女の子の一人歩きは危険だから家まで送ろうか?」
相変わらずの優しさに心打たれそうになる。だが今はそれどころではないので、お気持ちだけ受け取って丁重にお断りさせて頂こう。
「大丈夫です。家、けっこう近いので。それに──もしもの時はちゃんと応戦します」
剣を胸元に掲げてニッと笑ってみせる。それにリードさんは眉を眉根を寄せて、
「君、本当に僕の話聞いてないね。危ないって何度言えば分かるんだ……」
とため息を零した。そんなリードさんに向けてお辞儀して、私は別れを告げる。
「色々とお話を聞かせてくださりありがとうございました。また会う事があれば、その時も仲良くしていただけたら幸いです!」
最後にもう一度会釈して、私は駆け足で店を出た。
この後どうやって奴隷商の拠点に行くかを考えなければならない。
デイリー・ケビソン子爵の屋敷にその拠点があるとも考えられない。そもそも国の目を欺いて来たんだ、そう簡単には見つからないだろう。
ならばどうするか。今から情報を集めては、どうしても時間がかかってしまう。
「──ただいま、アミィ。今まで一人にしていてごめんね」
突然戻ってきた猫シルフは、耳をぺしょ……と垂れさせている。
なんだろう、寝てたのかな。シルフの声が少し疲れているようだ。
「おかえりシルフ。今までどうしてたの?」
「いやちょっと野暮用が。もっと早く戻ってくるつもりだったんだけど、本当にごめんね。一人で大丈夫だった? 何も無かった?」
「大丈夫だよ。男の人達に囲まれてそれを制圧したり、優しいお兄さんと仲良くなったぐらいかな」
シルフ不在の間に起きた出来事を話すと、彼は切羽詰まった声を上げた。
「色々あり過ぎじゃないかな!? 何でよりによってボクがいない時に限ってそんな!」
「それでねシルフ、この後なんだけど──」
「もうちょっと掘り下げさせてくれてもよくない……?」
シルフは動揺を隠せない様子で呟いた。ごめんね、詳しい話はまた後で!
「私ね、何とかして奴隷商の拠点に乗り込んで捕えられてる子供達を助けたいの」
私の言葉に、シルフは体を強ばらせた。
そして長い針が一回りするぐらい経って、シルフは叫ぶ。
「……──どうしてそうなったの?!」
そして私は、近くのベンチに一旦腰を下ろして、かくかくしかじかと一連の流れを説明する。
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