第83話オセロマイト王国にて2
「……あら、おかしいですね。
困ったような口振りで表情を持たぬ頬に手を当てて、辺りをぐるりと一瞥する。するとどうだろう…不自然な程に辺りは静かになった。
やっぱり急を要する時はフォーロイトらしく振る舞った方が早いのね、次からは初手傲岸不遜で行こう。
この際だからもうオセロマイト王に直撃しようじゃないか。虎の威を借る狐ならずフォーロイトの威を借る王女よ!
「挨拶には挨拶を。これしきの事…子供でも知る常識ですものね、オセロマイト王?」
オセロマイト王に向け、私はわざとらしい笑顔を貼り付けてみた。
銀髪に寒色の瞳を持つフォーロイトの人間が笑った事に、周囲の人達は露骨に恐怖していた。中には足が産まれたての子鹿のようになっている人もいた。
そこそこ不敬を働く私ではあるが、此処で殺されたり処されたりする可能性は限り無く低いと判断して行動している。
私がフォーロイトだからという理由だけではない。私がマクベスタの友達だから。
それに私が此処にいる理由は
この国を
それは見過ごせないし、そもそも私はこんな所で死にたくない。
なので私は、確実に死ぬ事だけは無いであろうこの状況だからこそ、こうして強気に出られるのだ。
じっとオセロマイト王を見つめる事一分弱。おもむろにオセロマイト王が玉座より立ち上がり、私の目の前まで歩いて来て、
「………フォーロイト帝国の姫君ともあろう御方になんたる無礼を…我が国の非礼、余が代わって詫びさせて頂く。本当に申し訳無い。どうかこの謝罪を受け入れてはくれぬだろうか」
頭を下げたのだ。それにはお偉いさん達も「陛下っ!?」と驚愕し、隣のマクベスタも「父上……」と複雑な面持ちでこぼしていた。
一国の王が頭を下げて誠意を見せたのに、許さない訳がないでしょう。ちょっとやり過ぎた気がしないでもないが、とりあえず私はオセロマイト王の謝罪を受け入れる事にした。
「…誠意には誠意を。御顔を上げてくださいまし、オセロマイト王。貴方様が
ニコリ、と微笑みながら話す。
あれ、あんまりお前の誠意見せてなくね? と思っただろう。寧ろ言い訳してね? とも思っただろう。
いいんだよそんなの後で。私はこの後、緑の竜を何とかするって言う最上級の誠意を見せるつもりなのだから!
──誠意って言葉を一回辞書で引け。そんな声がどこからともなく聞こえた気がするが気にしない気にしない。
「あ、こちらは件の病の為に名乗りを上げ共に来て下さった司祭の方です。他四名は……
「何と司祭の方を……」
「それと、後日になるかと思いますが、こちらの方で手配した食料も届きますので。もし水の心配等があれば申し付けて下さい、
「王女殿下自らそこまで…?!」
周りも気にせずオセロマイト王と話す。国教会から大司教が来るかもと言う話はしないでおこう、まだ確定した訳では無いし、下手に期待させるのも良くないから。
すると突然、感極まったように体を震わせるオセロマイト王が、
「…何故、貴女様はそこまでして下さるのか。フォーロイト帝国からすれば大した価値も無い我が国に……」
か細い声で呟いた。私は一度マクベスタの方を見て、その言葉への返答を用意した。
「そうですね…
そう、まるで我儘王女のように言うと周囲の人達が少し眉をひそめた。しかし私の言葉はまだここで終わりではないのだ。
「加えて、私としては…かけがえの無い友を育んでくれたとても美しく穏やかな国と思っているから……でしょうか」
マクベスタがあんなにも真面目で優しく育ったのは、間違いなくオセロマイトが穏やかな国だからだ。
マクベスタと言う存在を形作り育み、そして私に出会う機会をくれたこの国には感謝の念すらある。だって、おかげさまで私は……背中を預けられる人生初の友人を得る事が出来たのだから。
そう設定された
ゲームで見た時よりもずっと魅力的で最高の…友達だ。
──私はとっても身内に甘い。友達が少ないからその数少ない友達には沢山の事をしてあげたい。
だからね、友達の為なら…国の一つや二つ救おうって気になれちゃうの。
我ながらとんだ馬鹿だと思う。でも不思議と恥ずかしくはない。寧ろそんな自分が誇らしいわ!
「………何もかも、我々には過分な言葉ですな」
オセロマイト王が眉根を下げて瞳を伏せ、
「しかし。他ならぬフォーロイト帝国が姫君からの御言葉…ありがたく頂戴する」
と優雅に一礼した。どうやら本調子に戻りつつあるようだ。
それに気を良くした私は相も変わらずニコニコとしたまま返事する。
「では話を進めましょう。宜しいですわね、オセロマイト王?」
「うむ、謁見などもう良い。至急最上の貴賓室の用意を!」
どうやらオセロマイト王は、腰を据えて話したいなーと言う私の思惑を察して周囲の人達に命令を下していた。
突如下された命に待機していた侍女やその場にいたお偉いさん達は大騒ぎ。急いで準備に向かった。
そして私達だけが残されると、
「…申し訳ない。暫し待たせる事になってしまいそうだ」
オセロマイト王が申し訳無さそうにもらした。
こればっかりは事前の報せも無しに来た私が悪い。その為、オセロマイト王には気にしないで下さいと伝えた。
ここで私は、一年ぶりの親子の再会なんだから私の事は放っておいてくださいな! と最高に気を利かせ、マクベスタをオセロマイト王の近くに置いて一人だけディオ達の所に戻った。
遠くから親子の再会を見守ろうと思ったのである。しかし突然ディオが虚空を見つめながら呟いた。
「……なぁ殿下、俺の首繋がってっか?」
「え、何よ藪から棒に。鏡替わりに水出してあげようか?」
その突飛な言葉に戸惑いつつ空中に水を出す。するとディオの顔が随分とぎこちない動きで水の方を向き、彼は首と頭が繋がっている事に安堵したようだった。
しかし急に何故。と思っていた時、今度はシャルが大きく息を吐いて言った。
「…王女様は凄い。よくこの状況であれ程堂々と振る舞えるな…俺なんて頭が真っ青だ」
「それを言うなら真っ白では…?」
シャルの少し間違った言葉にすかさずリードさんが真顔で訂正を入れる。
そして何やらシャルの言葉にディオが共感し頷いている。その理由はよく分からないが、とりあえず私はシャルに向けて最強の殺し文句を言い放つ。
「だって私、フォーロイトよ?」
極悪非道、冷酷無比、傲岸不遜、傍若無人、慇懃無礼、絶対王者。以上の言葉達を欲しいままにする我が氷の血筋が堂々と振る舞えない筈がなかったのよ。
つまりこれは、
これから積極的に使っていこう。大丈夫、こんな態度でもきっと許されるよ。
だって…我、フォーロイトぞ??
アミレスにもこれぐらいの面の皮の厚さがあったらなぁ……皇帝に利用されて殺される事なんて無かったろうに。
我が一族にのみ許された最強の殺し文句を聞いた大人達は全員、
(確かに)
と今にも言いだしそうな表情で固まっていた。
全国各地での
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