第82話オセロマイト王国にて
オセロマイト王国に入国し、あまりにも無茶な地獄のドライブを経て、私達は王都たる花の都ラ・フレーシャに到着した。
虎車から瀕死状態で降りた結果、もうめちゃくちゃ気持ち悪くて嘔吐しそうになる。しかし耐えた。
あの時同様、アミレスにそんな事させてたまるかというプライドが働き、何とか耐えてみせたのだ。……嘘ですリードさんの
花咲き誇る花壇に倒れ込み体を預け、逆流したものが飛び出ないように口元を必死に押さえていると、リードさんがそっと私の背中に触れて、
「遅れてごめんよ、今楽にしてあげるから」
と今際に現れた死神のような言葉を囁いた。だがその微笑みはまさに天使のごとき眩いもの……台詞と表情の乖離が凄い。
その瞬間彼の手がほんのり熱くなり、その熱が触れられた場所を中心に身体中へと広がってゆく。それに比例して体がどんどん軽くなり、やがてあれだけ吐きそうだったのが嘘のように元気になった。
治癒魔法本当に凄い…RPGでヒーラーが重宝される理由がよく分かった気がする。
「リードさん…度重なる親切、本当にありがとうございます……」
地べたに正座し元気になった体を折って私は深々と感謝を述べた。
するとリードさんは困った声をあげた。
「やめて!? 僕に向けてそんな風にしないでくれないか!? よりにもよって君にそんな事をされては心臓がいくつあっても足りないんだが?!!」
すると、あたふたしながら「とにかく早く起き上がって!」と繰り返すリードさんに向けて、シュヴァルツが追い討ちをかけたのだ。
「一国の王女を這いつくばらせてる………」
「違うからね?! そんな事してないから! 悪質な解釈は辞めてくれないかなぁ!!」
それに眉をつり上げて強く反論するリードさん。そこから軽い口論が始まってしまった。
私が感謝のあまり頭を垂れていると彼に迷惑をかけてしまうようなので、とにかく急いで姿勢を正した。正座でピシッと背を伸ばす私に向け、マクベスタが手を差し伸べてきた。
「そもそも地面に座るな、ドレスが汚れてしまうぞ」
「ありがとう。でも服なんて汚すものでしょう?」
マメなどでゴツゴツとしたマクベスタの手を握り、私は立ち上がる。裾をパンパンっと手ではらい、多少なりとも汚れを落とした。
そして口論するシュヴァルツとリードさんの間に「私が紛らわしい事してごめんなさいね」と割り込んでそれを止め、リードさんによる全員分の治癒が済み次第私達は城へと向かった。
ちなみに
さてそれはともかく。城に向かう理由は単純明快。
今回の件の事で、オセロマイト王国国王のランデルス・オセロマイト王に謁見する為である。
この状況で王に謁見なんて難しいんだろうな…と皆で話していたのだが、いざ城に着くとマクベスタの連れと言う事であっさりと入城出来てしまった。
マクベスタが城の人に謁見の旨を伝える際、私がひょっこり顔とフォーロイトの名前を出した所、少し渋っていた城の人が顔色を変えて駆けだした。
その後は会う人全てが私を見てまるで化け物と遭遇したような反応をしていた。いくら私が"フォーロイト"でもなんと失礼な。
そしてあれよこれよという間に謁見の時が来てしまったのである。
「マクベスタ・オセロマイト第二王子殿下の帰城! お、及び……ふ、フォーロイト帝国が王女アミレス・ヘル・フォーロイト第一王女殿下の来城でしゅ…っ!!」
あ、噛んだ。大きな扉の前に立つ兵士が真っ青な顔で宣言すると、大きな扉はゆっくりと開いていった。
中に入る直前にちらりと後ろを振り向いた所、ディオとシャルが凄く緊張しているようだった。表情が完全に固まってしまっている。
逆にリードさんとイリオーデとシュヴァルツは特に緊張した様子が無い。自然体と言うべきなのか、慣れているのか。
かくいう私は少し緊張している。何故ならこれまで公の場に出た事が一度も無いから! 流石に緊張すると言うものよ。
しかし緊張なんてしている場合ではない。
とりあえずディオとシャルに心の中で頑張れとエールを送り、前を向き直す。マクベスタが先導するように歩いてくれるので、私達はその後ろを行った。
中はとても広かった。奥に玉座がありオセロマイト王が鎮座している。
私達が通った空間中央の道には玉座まで続く赤いカーペットが敷かれている。そのカーペットの左右に随分と顔色の悪いお偉いさんらしき人達がズラリと並んでいて、空間はとても荘厳な雰囲気に包まれている。
もし、少しでも粗相しようものなら首をはねられそうな…そんな雰囲気だ。
玉座よりオセロマイト王が静かにこちらを見下ろす。歳は四十代程だと何処かで聞いた気がするのだが、オセロマイト王の見た目は実年齢よりも老けて見える。
目の下には隠しきれない隈があり、やつれているようにも。自国で突然原因不明の伝染病が発生したのだ、ストレスも相当なものなのだろう。
「我等が太陽、国王陛下に拝謁致します。マクベスタ・オセロマイト、親善交流の途中ではあるものの…愛する我が国の危機と聞き飛び帰って参りました。こちらはこの危機を脱する為にと立ち上がって下さったアミレス・ヘル・フォーロイト王女殿下とその私兵の方々です」
マクベスタが恭しく一礼し、私達の紹介をしてくれた。それを受けて私はドレスの裾をつまみ胸に手を当てて改めて名乗る。
「この度は事前の報せも無く礼を欠いた訪問となり申し訳ございません。フォーロイト帝国が第一王女アミレス・ヘル・フォーロイト……我が友マクベスタ・オセロマイトの力となるべく推参しました。微力ながら、この事態のいち早い収束に貢献出来るよう尽力致します」
その瞬間、周りがざわっ…と明らかにどよめきだした。ちらりと横目で周りを見てみると、オセロマイトのお偉いさん達が青白い顔で狼狽していた。
………そんなにおかしいかなぁフォーロイトが頭を下げたのって。人間なんだもの、お辞儀の一つや二つ別にしてもおかしくはないでしょう? この空気、妙にいたたまれないのだけど。
私の態度が意外とちゃんとしてるから? やっぱり無茶苦茶な態度の方がフォーロイトらしいのかな。中身が違う私ってばフォーロイトの中ではかなりの異端児だし。
うーむ、どうしようかしらぁ…フォーロイトらしく傲岸不遜慇懃無礼傍若無人に振る舞ってしまった方が話が進むのならそうするけど。
…とりあえずやってみるか。そう決めた私は顔から感情を下ろし、ゆっくりと頭を上げた。
隣でマクベスタが驚いたように目を丸くしているが、一旦それは無視して私は口を開いた。
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