第18話初外出で厄介事とは。2
男達の顔に驚愕が走る。しかしそれは程なくして薄気味悪い笑みへと変わった。
「おいおい、大人相手にそんな子ども騙しが通用する訳ないだろお嬢ちゃん。そんな玩具の剣で俺達の命を貰う? はっはっはっ! やれるものならやってみろよ、ほら」
「そんな事言ってやんなよ〜」
「頑張れよぉ、お嬢ちゃん」
「玩具の剣で何が出来るのやら!」
「ははははは!!」
一斉に笑い声をあげ、男達はこちらを見下してくる。
だがそれもそうだ……何せ
しかし、その考えはこの剣が特殊な物の為否定される事となる。
この剣はエンヴィーさんが私の為にと用意してくれた異様に軽い剣。ペンと大差ない重さなのに、振るった刃はそれなりの重みを持つ特殊な剣なのだ。
「えいっ」
わざとらしく笑みを作り、私は小太りの男の太ももに切り傷をつけた。もう少し力を入れていたら、多分、足なんて簡単に斬れていた事だろう。
「っぁあああ!? 俺の足が……っ!!」
足に急激な痛みを覚えたのか、一人の男が叫び声を上げながら蹲る。
他の男がキッとこちらを睨んで、
「テメェ何しやがった!?」
と言いつつ懐から出した
「貴方達がそんな玩具で何が出来るなどと言い出したので、見せてあげただけです」
「なっ……?!」
私はそれに答えつつ、剣を振り上げてその
唖然とし言葉を失う男達を見て、この程度の強さならいけると確信する。
彼等は私より弱い。慢心している訳ではない、ただ単純に私の方が技術で勝るというだけだ。
♢♢♢♢
二年前、剣術の特訓にて。
「姫さん、今からはとにかく俺の動きを封じる事だけ考えてください」
「……っ動きを……ですか?」
特訓の最中にエンヴィーさんが余裕をもって提案してきた。私は何とか一撃を入れようと息も切れ切れに奮闘しているのに……エンヴィーさんは息一つ乱さずそれを片手で軽くいなしてしまうのだ。
そんなエンヴィーさんからの突然の提案に私は立ち止まり、オウム返しのように呟く。
エンヴィーさんもまた構えていた剣を下ろして説明に移った。
「姫さんは女の子なんすから、どれだけ努力しても結局は男に力では勝てないンすよ」
確かにその通りだけれど、努力が報われないと言われるのは少し心にくるわね。
「だから姫さんには相手の力を受け流す技を覚えて貰いたいんすよ」
「技、ですか」
「そう。弾く、流す、躱す……相手の攻撃をいなす術を身につけていれば、いざという時男相手でもある程度は渡り合える筈ですから」
エンヴィーさんはくるくると剣を器用に動かしながら続ける。
「でもまぁ、一番良いのはそもそも力勝負に持ち込まれないように一撃で相手を落とすか相手の動きを封じる事っすね」
確かに力勝負で私が勝つ事は不可能だが、力勝負に入るよりも前に敵を倒せばその心配も無くなる。
一撃で相手を落とすか相手の動きを封じる……そうすれば、私にも勝機がある。
「…………つまり、私は戦いにおいては早期決着を狙えばいいんですね?」
「そうッスね。姫さんみたいな魔法も剣も使う人間に長期戦は無理なんで長期戦は絶対に避けてください、長期戦になるぐらいなら逃げるように。そうっすね──長くて十分。それが姫さんが全力で戦える限界だと思っておいてくださいな」
ここ数年間私の特訓を見続けてくれているエンヴィーさんがそう言うんだ、私には恐らく十分以上の戦いは不可能。
逆に考えれば十分は戦える。その内に決着をつければいいという訳だ。
「分かりました。これからは早期決着を念頭に置いて戦います」
「おー、物分りのいい生徒は好きですよ、俺は」
ニッと笑い、エンヴィーさんは優しく頭を撫でてくれた。それに気を良くした私は「もっと褒めてください」と調子に乗った事を言い、エンヴィーさんに「生意気な教え子だな〜!」と髪を掻き乱されてしまった。
その後、一度休憩を挟んでから特訓を再開し、私は早期決着の為の立ち回りを色々と模索して行ったのだ。
♢♢♢♢
長い期間をかけて様々な特訓と平行して、師匠たるエンヴィーさんからどうにか一本取ろうと努力していたが、それは本当に難しく険しい壁だった。
──結局、それが叶ったのはほんの半年前。
半年前に、ようやく私はエンヴィーさんの虚を衝く事に成功したのだ。……まぁ、魔法も有りで何とかギリギリって感じだったけども。
突然実戦だと言われても戸惑うだけかと思っていたが、案外私は冷静だった。いかにしてこの五人の大人の男達を制圧するか、それだけを考えていた。
きっと騒ぎになるだろう。だがその時の為の言い訳や対策ももう考えてある。
ならば、もう行こうじゃないか。エンヴィーさんの教えに則り──全員、一撃で終わらせればいいのだから。
「御安心を、お時間は取らせません。きちんと百秒以内に終わらせますので」
ニコリと微笑みを作り、私はこの場の制圧の為に動き出す。
唖然とする男達を尻目に私はまず一人、確実に動きを封じる。
「一人目」
「いッ?!」
先程足に切り傷を作った小太りの男の右肩の辺りにただ剣を振り下ろし、傷を増やしてあげた。何の芸も無いやり方で申し訳ない。
「二人目」
すかさずその隣にいた小柄な男にも剣を向ける。その男は「ひぃっ!!」と情けない声を上げて逃げ出そうとしたので、しっかりと右脚の膝裏を斬った。これでそう簡単には逃げられまい。
次は反対側だ。地面を蹴り一気に反対側に立っていた変な顔のおっさんの目の前に移動する。そして剣の柄でおっさんの顎を下から突き上げる。
間抜けに口を開けっぱなしにしていたおっさんは舌でも噛んだのか、後ろに倒れ込んだ後声にならない叫び声をあげて悶絶していた。
「三人目」
あと残りは二人。まぁ余裕だな、と思っていた所、どうやら相手にもそこそこ武術の覚えがある人がいたらしい。
意地悪男じゃない方の、先程
「ぐっ……な……ッ!?」
だが、気配も殺気も何も隠せていない。その程度の杜撰な動きで良く攻撃が当たると思ったわね。
私は振り返らず剣を後ろに突き出して男の腹部を攻撃し、倒れる男の腹から剣を抜いてから男の腹を蹴る。
これでこの男の動きも封じれたでしょう。
「四人目……さて、後はあんただけですね」
そう言いながら意地悪男の方を振り返ると、男は顔を真っ青にしながら腰を抜かしていた。顎を震わせて、「たすけてくれ」と繰り返している。
とりあえず逃げられたら困るので、男の足に剣を突き刺して文字通り動きを封じる。男がうるさい叫び声をあげようとしたので、「お静かに」と圧をかける。
「助けろだなんて随分偉そうですね。どうせあんた達は今まで何人もの女の子に酷い事をして、その度にその子達の助けてとかやめてって言葉を無視して来たんでしょう? ちょっと虫がよすぎると思いませんか?」
男を見下しながら、私はいくつも尋ねる。
しっかし……他人を傷つける事に全く抵抗が無いのだけど、これって戦うにあたって凄くいい事なんじゃあないか?
エンヴィーさんも言ってたよ。『一瞬の躊躇が死に繋がる』って。これっていい事じゃないか!
そうやって内心で一人盛り上がっていると、男が顎をガタガタと言わせながら話す。
「ちがっ、違うんだ!! 俺達はアイツ等に命令されてやってただけで…………っ!」
──それを聞き、急遽、私は男を問い詰める事にした。
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