第11話ある側近の期待
──熱に侵されたからか人格に変化が見られる。
なんと面白い話でしょうか。フリードル殿下よりこの報告を受けた時、私は衝撃を受けました。
不可解で突発的な事象。本来起こるはずの無い変異……それが私の近くで発生したというのです。
確かに人は死を疑似体験すると考えを改め、性格に変化が見られると言います。なので、彼女の事も、有り得ない事では無いのです。
確かに今朝方に私が見た彼女は、かなりの高熱に囚われており、見るも憐れな姿となっておりました。それはもう酷い熱で、このままでは後数日間は病に伏すだろうと思う程でした。
一応、熱によく効くと噂の薬を彼女の専属侍女に渡して早い回復を祈りましたが……まさか半日足らずで回復し、散歩に躍り出る程元気になるとは。あまりにも予想外でしたね。
別にそれは良かったのです。私としても彼女が少しでも早く回復する方が、何かと監視がしやすいですし、眠る者を視透す事は難しいので。
ただ問題が一つ発生しました。フリードル殿下への態度が明らかに昨日までの彼女のものとは違うのです。とは言え、それもフリードル殿下から聞き及んだだけなのですが……彼が嘘をついている様子は無かったので、まぁ、事実なのでしょう。
彼女のあまりにも突飛な変化にフリードル殿下はかなり驚かれたようで……表面上は冷静を装っていましたが、その胸中は戸惑いで溢れておりました。
かく言う私も少しばかり戸惑ったものです。まさかあの彼女がフリードル殿下に反抗するだなんて……と。
彼女はとても、心の底から、フリードル殿下と陛下を愛しておりました。フリードル殿下と陛下に愛されたいと願っておりました。
それに偽りなど無く、私がこの眼で確かに視てきたものなのですが……どうやら今日の彼女は違ったようです。フリードル殿下や陛下に嫌われる事を恐れていた彼女が、もし作戦などであっても反抗的な振る舞いをする筈が無い。
……つまり、昼間にフリードル殿下が遭遇し、反抗的な振る舞いをした彼女は正しく彼女であり──その振る舞いも本心からのものであったという事です。
私はフリードル殿下の話を聞いてまず最初に、皇宮の彼女の部屋へと向かいました。すると偶然にも彼女の専属侍女……確かハイラさんでしたか。彼女と出会い、焦る彼女にその理由を聞きました。
何でも、今、彼女はまた高熱に苦しんでいるのだとか。
昼間フリードル殿下が見た彼女は元気な様子だったらしいのですが……一体どういう事なのでしょうか。私が今朝侍女に渡した薬が一時的に効いて、夜になりその効果が切れたとかでしょうか。
……自分で言っておいてあれですが、かなり非現実的ですね。そんな中途半端な効能でしたら、よく効く薬として噂になったりもしないでしょう。
では、何故か。それを考え究明するのが私の仕事です。最も手っ取り早いのは彼女を視る事なのですが、今は眠っているそうですからそれは不可能です。また日を改める事にしましょう。
陛下より少なからず利用価値があると判断されている事から、彼女はまだしばらくは処分される事もないでしょうし、陛下にとって邪魔な存在にならない限り私も手を出すつもりはありません。
ですが……どうしてでしょうか、彼女は近い将来に陛下の障害となる予感がするのです。陛下の忠臣としては今のうちに処分した方が良いかと思うのですが、ケイリオルという人間としてはもう少し彼女を監視してその謎や変異を解き明かしたいと思うのです。
こう見えて、私、推理小説等が好きでして。良いですよね……一見して不可能な殺人や事件の数々。それを限られた情報から予測し論理立てて犯人を見つけ出す。
胸が踊りますねぇ。過去にそう言った推理小説の探偵の真似事をした事は何度かあるのですが……残念ながら、私からすれば全ての人間は情報を得る為の道具に過ぎず、相手を視ただけで全てが分かってしまうので推理をする必要も無かったのです。
なので今、私はとても嬉しいのです。最低でも一晩……彼女の変異について推理を巡らせる事が出来るのですから!
それも私の力及ばず一晩で究明出来なかった場合はそれ以上も可能なのです。数日間、数週間、数ヶ月間、数年間………一体どれだけの間、私は解けない謎に挑み続けられるのでしょうか。
あぁ、ですから…彼女が陛下に不要だと思われ処分されない事を祈るばかりです。
陛下が私に彼女を処分せよと命じられたのならば、勿論私は彼女を処分します。私の感情や趣味よりも陛下の御言葉の方が重要ですから。
なのでこれはちょっとした、ささやかな願いです。叶おうが叶わなかろうがどちらもでもいい希望に過ぎません。
どうか、貴女の存在価値を示して下さい。
そうして……陛下にとって貴女の存在が必要なものだと思わせてみせて下さい。
さすればきっと、貴女は処分されずに生きていく事が出来るでしょうから。
突然の変異を見せた貴女にならばきっと、存在価値を示す事ぐらい可能でしょう。
私も、陰ながら応援していますよ──……王女殿下。
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