月光、愛を照らす。(昴×円)
①
・昴×円
・お月見ネタ
─────────・・・・
貴方があの月に心奪われる瞬間も
僕はずっと、
貴方だけに夢中なんだろう
月光、愛を照らす。
side.Subaru
「昴クン、昴クン!」
秋も濃く色付き、肌に触れる風も徐々に冷たさを増した宵の口。
バイトもなく一足先に学校から帰宅した俺が、
夕食の支度に勤しんでいると…
バタバタと忙しない足音と共に現れた愛しい人が、
俺のいるキッチンまで一気に駆け込んで来た。
「おかえりなさい、円サン。」
子どもみたいな登場に、思わず苦笑する俺は。
年上とは思えない、その無邪気な様に…いつも絆されてしまう。
この人が、俺の自慢の恋人…なんだと。
「あっ、ただいま!昴クンあのね、あのねっ─────」
ずっと走って来たんだろう、
円サンは息を切らしながらもニコニコと笑顔浮かべ。
日暮れは随分と肌寒くなってきたはずなのに。
その額からは、汗の粒がいくつも浮き出ていた。
「円サン、落ち着いて下さい。」
急くように話すものだから、
息が上がって盛大に噎せてしまう円サン。
その姿につい吹き出す俺だったが、宥めるよう背中をさすってあげると。
円サンもゆっくりと深呼吸して、息を整えた。
「はぁ────…苦しかった~…」
ほっと吐き、胸を押さえながら円サンは。
照れたようにカラカラと笑い飛ばす。
「どうしたんです?こんな慌てて…」
円サンが平常に戻ったところで、話を振ると。
「えへへ~…じゃじゃーん!!」
ずいっと誇らしげに掲げられたのは、レジ袋で。
意図が読めず、俺がぽかんとして首を傾げると…
円サンは悪戯少年の笑みを湛えながら、ゴソゴソと袋の中身を漁り始めた。
その中身に俺は、更に疑問符を浮かべる事となる。
「何ですか、コレ…」
「ん~?ウサギさんとトラさんだよ!」
円サンがそう表現したモノの正体は…。
パーティーグッズの売り場でよく見かけるような、
動物の耳を模したカチューシャであって…
勿論そんな事は、解ってるんだけど…
どういうことだろうか?
「はいっ、昴クンはこっち!」
そう言って手渡されたトラさんの耳…。
未だ話について行けず、困惑する俺をよそに。
円サンはさっさと手に残されたウサギさんの方を、自分の頭へと装着し始めた。
「どお?似合う~?」
「っ…─────!!」
かっ…可愛い!
現状も忘れ、暫し円サンの姿に心奪われる。
頭にぴょこんと立った、白くて長いふわふわな耳と恋人…という組み合わせを前に。
俺の不埒な男心は、存分に擽られるのだった。
(でも一体…)
耳なんか付けてどうするんだろう?
コレも性なのか…ムクムクと邪な妄想が頭を過ぎる。
そんな葛藤など知らぬ円サンは、くもりなき視線を俺へと向けてきて。
俺は慌てて邪念を取っ払うと。
ぎこちないながらも、すぐに笑顔を繕って見せた。
「凄く可愛いです…けど、本当にどうしたんですか?」
問えばタレ気味の目を更に下げ、ニヤける円サンは。
「だって今日は、こーんな大きな満月なんだよ!だから~」
“お月見しよう!”
そう告げながら指差した先、
ベランダの向こうでは丸く雅な月が…
こちらを覗き見ていた。
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