「花火、綺麗だったなぁ。」



楽しかったかと問えば、うんと頷く晃亮。

…だが帰る頃になって急に、微妙な表情を見せ始める。


本人は隠そうとしているようだが、遥にはすぐ判ってしまうので。

理由までは知らないけれど、とりあえず慰めてやろうかなぁと、無意識に手を伸ばし…





「あっ、と…」



いかんいかんと気付いて、手を引っ込めてしまった。それが気に食わないのか、更にむすっとする晃亮。







「なぁに不貞腐れてんだよ?」



変わりにバシバシと背中を叩いても、晃亮の機嫌は治らず。何度か問いただせば、ぽつりと口を開く。






「みんな、はるかを見てた…」



下心で男も女も。大抵は晃亮の美貌と迫力に圧倒されて、声を掛けられずにいたけれど。


祭りという熱気のせいなのか、中には猛者がいて…。


同じイケメンでも、常に警戒心剥き出しな晃亮ではなく。親しみ易そうな雰囲気の遥を集中的に、皆が狙ってきたのだが…。


どうやらそれが、晃亮の癇に触ったようだ。






「なんだ、今更。お前楽しそうにしてたじゃねーか。」



まあ…ナンパしてきた女には、あからさまに不機嫌オーラを出してはいたが。

それも晃亮の威圧的な態度ですぐ去っていったから、問題無いだろうと思っていた。


その後も、何度か邪魔は入ったが…うまく遣り過ごしてたし。興味の薄い晃亮が、珍しく花火にも魅入ったりしてたから。


連れてきて良かったなと、遥は安心していたのだけど…。







「楽しかった、でも、ナンパは…きらいだ。」



まず、遥に色目を遣うヤツが気に入らないと言う晃亮。更に、





「ほんとは、ぶん殴ってやりたかった…けどガマンしたんだ。はるかと、」



昴達が言ってたんだって、

夏は祭りでデートだなって。だから…






「それで大人しくしてたのか、お前…」



今日は随分とお利口さんだなとは思ってたが…。

それで最終的にイライラが爆発したのか、と合点がいく遥。


じーっと晃亮の顔を覗き込めば、バツが悪そうに目を泳がせてしまう。




ああ、こういう時はやっぱり頭を撫でてやりたくなるのだが。


久しぶりにカッチリ前髪を上げた晃亮も、新鮮というか色っぽいというか。綺麗に結ってあるし、崩すのは勿体無いよなぁと…手を出しては引っ込める。


それを目にした晃亮は、不満たらたらで遥の手を掴んできて…






「それに、はるかが…さわらないから、」



いつもみたいに撫でてくれないのが、嫌だなんて。

大人びた顔でなんとも可愛い台詞を吐きやがる晃亮。


そんなの見せられたら、大人な遥だって平静ではいられなくなるのは…



仕方がないというものだ。






「ばっかだなぁ、お前は…」



けどやっぱり勿体無いから、頭は避けて。

変わりにこつんと額をくっつけてやる。




「せっかく男前にしてもらってんだろ…?」



もっと今のお前を、見ていたいんだよって…柄にもない台詞を吐く。


晃亮は変に繕ったりせず。何事も直球で言ってやらなきゃ…と。遥が一番理解してるからだ。







「ほんと、綺麗だよなぁ…」



顔を近付けたまま呟けば、晃亮も負けじと甘い毒を吐く。





「はるかのほうが、きれいだ…」



それこそ浴衣姿を初めて見た時から、ずっと。

実は押し倒したくて仕方ないだとか…ヤラシイ顔をしてぶっちゃけてくる。




ああ…コイツにそんな目をされては、どうしようもないなぁ…と。


元より本能で生きてきたような遥だったから。

純粋な晃亮に欲しがられたら、まず我慢など出来るはずがなく…






「コースケ…どっちがいい?」



家まで待つのと、今すぐ─────…



これじゃ悪い大人の見本だな、と自嘲しながらも。

相手が晃亮だからこそ、遥は敢えて大胆に。


自ら、切り出すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る