③
「花火、綺麗だったなぁ。」
楽しかったかと問えば、うんと頷く晃亮。
…だが帰る頃になって急に、微妙な表情を見せ始める。
本人は隠そうとしているようだが、遥にはすぐ判ってしまうので。
理由までは知らないけれど、とりあえず慰めてやろうかなぁと、無意識に手を伸ばし…
「あっ、と…」
いかんいかんと気付いて、手を引っ込めてしまった。それが気に食わないのか、更にむすっとする晃亮。
「なぁに不貞腐れてんだよ?」
変わりにバシバシと背中を叩いても、晃亮の機嫌は治らず。何度か問いただせば、ぽつりと口を開く。
「みんな、はるかを見てた…」
下心で男も女も。大抵は晃亮の美貌と迫力に圧倒されて、声を掛けられずにいたけれど。
祭りという熱気のせいなのか、中には猛者がいて…。
同じイケメンでも、常に警戒心剥き出しな晃亮ではなく。親しみ易そうな雰囲気の遥を集中的に、皆が狙ってきたのだが…。
どうやらそれが、晃亮の癇に触ったようだ。
「なんだ、今更。お前楽しそうにしてたじゃねーか。」
まあ…ナンパしてきた女には、あからさまに不機嫌オーラを出してはいたが。
それも晃亮の威圧的な態度ですぐ去っていったから、問題無いだろうと思っていた。
その後も、何度か邪魔は入ったが…うまく遣り過ごしてたし。興味の薄い晃亮が、珍しく花火にも魅入ったりしてたから。
連れてきて良かったなと、遥は安心していたのだけど…。
「楽しかった、でも、ナンパは…きらいだ。」
まず、遥に色目を遣うヤツが気に入らないと言う晃亮。更に、
「ほんとは、ぶん殴ってやりたかった…けどガマンしたんだ。はるかと、」
昴達が言ってたんだって、
夏は祭りでデートだなって。だから…
「それで大人しくしてたのか、お前…」
今日は随分とお利口さんだなとは思ってたが…。
それで最終的にイライラが爆発したのか、と合点がいく遥。
じーっと晃亮の顔を覗き込めば、バツが悪そうに目を泳がせてしまう。
ああ、こういう時はやっぱり頭を撫でてやりたくなるのだが。
久しぶりにカッチリ前髪を上げた晃亮も、新鮮というか色っぽいというか。綺麗に結ってあるし、崩すのは勿体無いよなぁと…手を出しては引っ込める。
それを目にした晃亮は、不満たらたらで遥の手を掴んできて…
「それに、はるかが…さわらないから、」
いつもみたいに撫でてくれないのが、嫌だなんて。
大人びた顔でなんとも可愛い台詞を吐きやがる晃亮。
そんなの見せられたら、大人な遥だって平静ではいられなくなるのは…
仕方がないというものだ。
「ばっかだなぁ、お前は…」
けどやっぱり勿体無いから、頭は避けて。
変わりにこつんと額をくっつけてやる。
「せっかく男前にしてもらってんだろ…?」
もっと今のお前を、見ていたいんだよって…柄にもない台詞を吐く。
晃亮は変に繕ったりせず。何事も直球で言ってやらなきゃ…と。遥が一番理解してるからだ。
「ほんと、綺麗だよなぁ…」
顔を近付けたまま呟けば、晃亮も負けじと甘い毒を吐く。
「はるかのほうが、きれいだ…」
それこそ浴衣姿を初めて見た時から、ずっと。
実は押し倒したくて仕方ないだとか…ヤラシイ顔をしてぶっちゃけてくる。
ああ…コイツにそんな目をされては、どうしようもないなぁ…と。
元より本能で生きてきたような遥だったから。
純粋な晃亮に欲しがられたら、まず我慢など出来るはずがなく…
「コースケ…どっちがいい?」
家まで待つのと、今すぐ─────…
これじゃ悪い大人の見本だな、と自嘲しながらも。
相手が晃亮だからこそ、遥は敢えて大胆に。
自ら、切り出すのだった。
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