②
何故、浴衣に着替えたか…
そんな事は当然、祭りに行くからに決まっていたのだが。
じゃあ何故、そういう流れになったのかと問われれば。珍しくもがな…
『はるかと、まつりに行きたい。』
あの晃亮に、そんなおねだりをされたからである。
今でこそ自分や親しい人間には、心開けるようにはなったが…。
幼い頃から受けた晃亮の傷は。
ほんの数ヶ月足らずで癒せるほど、容易いものではない。
血の通う肉親はおろか、他人にまで常に牙を剥いて生きてきた晃亮。そんな彼が自ら、人の溢れる祭りなんぞに行きたいだなんて…。
誘われた当初は、信じられなかった遥も。
我が子の成長を喜ぶ親の心境さながら、快く了承したものだった。
(おーおー、みんなガッツリ見てやがんなぁ…)
これだけ人が溢れてるにも関わらず、何故だかふたりの周りには人が寄り付くことはなく。
居合わせた者は皆、遠巻きに此方を返り見ては。
ほう…と熱い息を吐く。
なんたって晃亮は普段から目立つしなぁ。
加えて今日はとびきり男前だし、と…複雑ながらも同調して頷く遥だったが。
その視線が自分にも向いてるだなんてことは、
微塵も気付かないでいる。
そんな無自覚な遥に、内心モヤモヤした気持ちを募らせる晃亮に至っても…表情は全く変わらないものだから。
お互い妙な気分に苛まれつつも、露店を見やりながら。活気溢れる人混みの中をゆっくりと歩いた。
晃亮が祭り初体験、という事で…一通り堪能して回る。
たこ焼きから始まり、綿飴にりんご飴、かき氷にイカ焼き、焼きとうもろこし…あと射的に金魚すくいといった定番も。余すことなく体験させてやった。
不器用に思えた晃亮も、実は知らないだけで意外と器用だったりして。
射的にしても金魚すくいにしても、コツさえ掴めば、結構な腕前を披露してくれる。
子どもみたくはしゃぎはしないが、それでも幾らか楽しんでいたようなので。
遥はそんな晃亮を微笑ましく思いながら、自らもふたりの時間を満喫していた。
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