side.Kousuke





「だからさ、俺そういうの苦手なんだってば。それにまだ焦ってお見合いするような歳でもねーし…」



渋る遥に。受話器の隙間からは、甲高い声が俺にまで聞こえてくる。


毎回こんな風にお節介な事を繰り返すから…

嫌な女だ。






「おばちゃん、俺マジ間に合ってっから…」


一応相手は年上だし、世話になってる親戚らしいから遥も強く出れないようで。

穏便な口調で断ろうとはするものの。その度に受話器から、猿みたいな奇声がノイズになって響いてくる。



さすがの遥も、このおばちゃんには敵わないみたいだ。






「会うだけでもってさ…俺は端からその気ねぇわけじゃん?で、万が一相手のコがマジになったりすっと、また面倒臭い事になんだろ?」


遥はモテる。

髭はやっぱり似合わないが。

女にはモテるし、男にだってかなり慕われてる。


遥の言い分はもっともだなと、俺は背後で密かに頷いていた。





それよりも心配なのは、遥の方だ。


気が乗らないと、遥は言っていたが…

会って遥が、その女に惚れてしまう可能性だって充分あるんだ。


だからそんな場所に、遥を行かせるわけにはいかない。絶対にだ。








「とにかく、俺は見合いなんざしな─────」


ぐるぐると渦巻く感情に促され、

ひしっと遥の背中にしがみつく。


腕を回して、強く強く。

そうしたら、遥の言葉がぴたりと途切れて。

首だけが俺を振り返った。







「晃亮、お前…」


目が合う。黙ったまま、じっと。


暫く見つめ合ってたら、遥の携帯からおばちゃんの高く耳障りな声が聞こえてきて。


遥は一度溜め息を漏らしたあと、前を向いて電話口に戻った。



その時の目が一瞬だけ。

いたずらに、俺を捕らえた気がする。





「わりぃ、おばちゃん。せっかくの見合い話なんだけど…」


遠慮しとくわと、遥は楽しげに続ける。






「俺さ──────」



“どうしても、放って置けねぇヤツが傍にいるから”






「そういうワケだから。」


じゃあと言って、一方的に電話を切った遥。


何故か胸の辺りがやけに熱く、おかしい…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る