第123話




 ディルクが主の執務室の扉を開けると、広くとられた窓際に置かれている鳥籠がカタリと音を鳴らした。

 中に囚われている青く美しい羽を持つ鳥が、扉の開閉音に反応して動いたのだ。

 美麗な籠に閉じ込められている其の青い鳥は、設置されている止まり木に嘴を数度擦り付け、羽を丸く膨らませる。

 そのフワリとした羽毛に片足を入れるところまで目にして、ディルクは室内の半ばまで足を進めた。


「貴方は何を呆けているんです。俺が此処に戻るまで、約一ヵ月という時間がかかっている。いつまで何もせずにいるつもりですか」


 青い鳥の籠の近くに立ち、ひとり窓から外を眺めていたトリエスの王が、ポツリと言葉を口にした。


「―――小娘が居ない」

「それはそうでしょう。彼女は俺達の目の前で攫われたのですから」

「部屋が、」

「…………」

「部屋がとても静かなんだ」

「……始終騒がしかったですからね、彼女は」

「ああ。静か過ぎて違和感しかなくてな、己の部屋が。あれが現れてから、まだ一年も経っていないはずなのに、常に傍にいるのが当たり前になっていたようだ」


 ポツリポツリと言葉を紡ぐトリエスの王の視線は未だ窓の外の庭園へと向いていて、その庭園は吹いている風に色取り取りの花弁を舞わせていた。

 季節は次へと移り変わろうとしている。舞うものの中に青い花弁を見つけて、トリエスの王は目を細めたようだった。


「執務を終えて部屋に戻っても、五月蠅く話しかけてくる存在が居ない。就寝の時にも起床の時にも、触れ合う程に近くに居た存在が消えた事に、己がこれまでどのようにして眠りを得ていたのか分からなくなっているのに気づいた」


 其処まで言葉を紡いで、トリエスの王の無機質さを感じさせる紫色の瞳がディルクの方へと向けられた。

 騒がしい彼女が現れる以前は、其れが彼の常であった事をディルクは思い出す。


「いつも五月蠅く、ところ構わずに奇行に走り、妄言を吐く」

「…………」

「酷く下品でもあったな。話が嚙み合わない事も多かった。決して分かり合えない壁も消える事は今後も無いだろう。……だが、面白く楽しいところもあった。拗らせすぎて、いじらしく思った事があったのも否定はしない」

「……そうですね」

「そう、それらを含めて余は楽しかったんだ、あれと過ごす日々が。小娘が居なくなって、今更になり、其れに気づかされた」

「そうですか」

「ディルク」

「はい」

「ああいう存在は、そうは居ないだろう?」

「居たら困りますね、俺としては」

「―――失いたくない」

「…………」

「余は、あの存在を失いたくない。失えない」


 ディルクは主君であり友人でもあるトリエスの王の言葉に深い溜息をついた。


「ようやくその言葉が出ましたか」

「…………」

「随分と時間がかかりましたね。この手の事には鈍いだろうとは思っていましたが、予想を遥かに超えての驚きの鈍さでした」


 ディルクが口角を少し上げ、肩を竦めた。

 そして王の執務机に近づき、入室前から手にしていた紙の束を其処に置く。


「親書と報告書です。我が国に多大な恩を売りたいと堂々と宣言をしながら渡してきたダルスアーダ王と、潜り込ませているエインズワース卿の二名からです。エインズワース卿によると、王太子クラウディウスが動いた事により、厚かった機密情報の壁が崩れたそうですよ」

「そうか」


 トリエスの王が窓から離れ、重厚な執務机の椅子に腰を落ち着けた。

 そして直ぐにディルクにより齎された親書と報告書に手を伸ばす。


「―――小娘は大丈夫なのだろうか」

「生死が、という事でしたら大丈夫でしょう。ガルダトイア側は彼女を殺しはしない。それと、エインズワース卿がクラウディウスの懐に入り込めたようですので、万が一の時は動くでしょう」

「そうか」

「それに加えてですが、貴方がご自分の気持ちに盛大に戸惑われているこの期間に、ヴィルフリートが非常に甚だしい越権行為を繰り出して、既に全軍が動いています。貴方ならこう動くだろうと予想して、一部を残し、ガルダトイア、レネヴィア、ラガリネの三ヵ国に軍を同時展開。気持ちに未だ気づけない貴方に邪魔をされては堪らないと、地下の大通路を使って王都を抜けて現在進軍中で、各国境に元々待機させてある軍と近々合流予定です。貴方による今後の指示を待っています」

「…………」

「ヴィルフリートから、貴方の気持が固まったら言えと言われている事があります」

「……なんだ」

「失ってからでは遅い、と。だから普段から適当に遊んでおけと何度も申し上げていた。その結果が、肝心要な時に迅速に動けないこの現状だ、だそうですよ」

「…………そうだな。その通りだ。返す言葉も無い」

「ああ、それと、」

「なんだ」

「気づいていると思いますが、オッサンが消えました」

「……放っておけ」

「ウオちゃんもです」

「………………」


 トリエスの王は机上の親書と報告書を己の方に引き寄せた。

 双方とも記載する事が多かったのだろう、なかなかに厚みのあるものだった。


「俺の報告から先にします」

「ああ」

「彼女は既にガルダトイアの王城に」

「……そうか」

「追跡捜索中に此方に被害が出ています。死者十五名、重傷者一名」

「…………」

「その重傷者の証言を得られています。発見時、こちら側が有利だったそうです。彼女の奪還は成し遂げられるはずだったと。しかし突然、大気が鋭利な刃のようになり全身を切り裂いた。気づいた時には、彼女をはじめとしたガルダトイアの者が消えていたそうです」

「………………」

「気になった事があると、その者が言っています。彼女は此方に助けを求める事はしなかった。拘束されもせず、口をふさがれている訳でも、脅されている様子も無いのに、向こうに従順な態度であったと。通じていた恐れは無いのか確認を求めています」

「……ああ、それは大丈夫だ。慢性あれるぎー性鼻炎だと言っていた。鼻が詰まっているから、口を塞がれるくらいなら従う、息が吸えなくて死んでしまうからと。ディルク、お前も見ただろう? 最初の頃の夜、余の部屋で」

「そういえば確かに貴方の手で鼻をかんでいましたね、彼女は。まあ、俺もその辺りは微塵も疑ってはいないんですよ。ですが陛下、俺はね、何故、ガルダトイアが彼女を攫ったのか、ずっと不思議だったんです。幾ら貴方の寵愛があると対外的に思わせていたとはいえ、あの時点では表面上の友好を破棄してまで、ウチを完全に敵にまわす程の価値も無い、ただの異世界人でしかない彼女だ」

「そうだな。分かったのか?」

「ええ、衝撃な事実の発覚です。―――彼女はガルダトイアの重要人物でした」

「重要人物?」

「報告書を。エインズワース卿の最初の方に書いてありますよ」

「分かった」


 トリエスの王は頷くと、アドルファス・エインズワースと署名が入っている方の表紙を繰り、冷たい印象を与える無機質な瞳を紙面に走らせた。

 そして嫌みな程に整い過ぎた眉を寄せて、驚きの声を上げる。


「―――ガルダトイアの王太子妃だと? あの小娘が?」

「彼女が貴方の下に現れて幾らもしないうちに、ガルダトイアは彼女不在で極秘に特殊な挙式を行っています。参列者はガルダトイア神王、神王妃、大貴族の当主、大神官と極一部の神官のみ。新郎は、」

「王太子クラウディウス、か」

「ええ」

「…………」

「内密に行ったのには、そうせざるを得なかったからでしょう」

「……余の手元に居たからな、小娘は」

「そうです。知れたら貴方に利用し尽くされるか、壊されるか、最悪始末されますからね」

「…………そうだな」

「そんな彼女を向こうは手中に収めたんです。そう遠くないうちに内外に正式に告知、今度は大陸一の格を知らしめる為の大規模な挙式を執り行うでしょう。その前に此方に取り戻せたとしても、彼女がガルダトイアの王太子妃であるという事実はもう隠せない。無かった事には出来ませんよ」

「……………」


 パラリと紙を繰る音を、トリエスの王は静寂が支配する執務室に立てた。

 暫く無言で目を通して、再び彼は黄金の眉を中央に寄せる。


「なに? 召喚? あの国はそのような事が出来るのか? いや、それよりもだ。小娘は望みもしないのに此方の世界に強制的に呼び寄せられたという事か?」


 トリエスの王が執務机をトントンと人差し指で叩き出した。

 何かを思考する時の彼の癖のようなもので、ディルクは其れを何とは無しに視界の端に入れる。


「しかし何故、小娘を呼び寄せる。あれがなんの役に立つと―――神獣の乙女? 神獣から神力を引き出す媒体? ある一定の間隔で召喚し、初代の神獣の乙女の出現はガルダトイアの建国年とそう変わらないらしい?」


 報告書をパラパラと手早く繰りながら、トリエスの王は次々と記載された先へと目を走らせる。

 そしてある頁になり、冷徹さの色を宿す瞳の動きをピタリと止めると、違和感を滲ませる声音を出した。


「フェリシア? 小娘の名はフェリシアというのか? ……似合わんな」


「あー…其処は受け渡しの者から口頭で補足を受けています。フェリシアという名は、神獣の乙女に必ずつけられる名であるそうです。ですので、彼女の本当の名は其れでは勿論無いでしょう。彼女がガルダトイアの王太子に教えていなければ、この世界ではまだ誰も知らないんじゃないですかね? そもそも貴方は聞いてすらいないでしょう?」

「……珍獣だったからな」

「そういう問題ですかね?」

「………………」


 トリエスの王は報告書に目を通す事を再開した。

 少しの間、静かな執務室に紙の繰る音だけが立てられる。

 しかしまたとある頁に差し掛かった時、再び紙を繰る手が止められた。


「―――成程、ウオは神獣だったという訳だ」


 トリエスの王は報告書から手を離した。

 王が使用するに相応しい重厚さを持つ執務机の椅子に深く背を預け、両肘も其れに乗せる。

 黄金の髪をサラリと動かしながら、思考を巡らす様子で視線を机上から逸らした。


「異世界の力の強い術士の血筋の娘が神獣の乙女と成る、か。術士の名は―――アベノセイメイ」


 ふと息をつくと、トリエスの王が目を閉じて眉間を揉んだ。


「繋がったな。希代のオンミョウジ、アベノセイメイ。小娘が明らかに戯言で口にしていた事が、そのまま事実だったという訳だ。たとえ一滴でもその血が小娘に流れていたと」


 執務机の端に置いてあったものにトリエスの王は眉間を揉むのを止めて視線を向けた。

 彼が視界に入れたのは、王の執務室にあるには到底相応しくない、幼児が書いたような字で書き連ねている紙の束だ。


「其処にあるのは小娘が学業に使用していたという教書を翻訳したものだ。それにも書いてあった。過去に存在していたのは確かなのだろう。だが、報告書にある初代の神獣の乙女の出現の年数と、アベノセイメイとやらが実在していた年数が合わない。アベノセイメイから小娘までは千年弱という年月の流れだが、ガルダトイアの初代の神獣の乙女からは六千年を超える。此方の世界と小娘の世界では時の流れの速さが違うのか、交わり合うのに何かしらの法則があってズレが生じるのか、空間と時間が関係し―――」

「あー…それを今、俺に語られてもサッパリなんで、その辺で一旦終わりましょうか、陛下」

「そうか? まあどちらにせよ、小娘にとっては迷惑この上ないという事だ。幾ら希代の術士の血筋とはいえ、知らない世界の知らない国の事だぞ? そんな預り知らぬものの為に、見知らぬ異世界人の男との婚姻を強要され、媒体として使われる。小娘を含め、歴代の神獣の乙女たちには悲劇でしかないな。己の国の事は、己の力で何とかするしかないだろうに。唾棄すべき愚かさだ」


 そう吐き捨てるように言うと、トリエスの王は背凭れから身を起こし、アドルファス・エインズワースによる報告書を閉じた。


「ガルダトイアが何故このような事を成す事が出来るようになったのか、異世界の術士の存在をどのようにして知ったのか、その辺りを含め今回の情報だけでは更なる疑問が湧くだけだが、今は此れで良しとするべきなのだろう。後はガルダトイアの王城の奥深くに眠っているであろう文献などを紐解けといったところだろうな。……本来なら全てが信じ難い話だ。だが、余は見てしまったからな。小娘が現れたのも、ウオの力も」


 そう淡々とした様子で言いながら、トリエスの王はダルスアーダ王の親書を手に取った。


「それに、以前から不可解に思っていた事への解決の糸口が見えた。ガルダトイアが長い歴史を歩んでいる中で、我が国のように勢いのある新興国は時折だが現れていた。だが、全てが亡国となっている。特筆すべき原因が無さそうな国もあったのにも関わらず、だ」


 トリエスの王が紙を繰り出した。

 そして他国の王により齎された情報を読み進めるうちに、次第にトリエスの王の瞳に呆れの色が滲み出す。


「―――成程な。過去も現在も古の神の力とやらを所持した事の無い血筋を王族として認めないという事だったのだな。くだらんな。実にくだらない。このような事になるまで探れなかった此方も此方だが、あれらもよく隠しきったものだ」

「まあ、その辺りはガルダトイアが仕切っていたのでしょう」

「そうだろうな」


 此れまでの長年の腐心を思うと色々と言いたい事はあるであろうに、この件に関しては其れ以上は口にはせず、トリエスの王は先へと読み進める事にしたようだ。

 そして数頁ほど目を通した時、ディルクが入室してから初めて、その瞳に激しい怒りの色を宿す。

 事前に親書の内容を把握しているディルクには、その怒りの原因となる記載内容に心当たりが有り、深い溜息をつくしかない。


「体調を崩したと思われる小娘に、悪評高いガルダトイアの堕胎薬を飲ませたようだだと?」

「ダルスアーダ王の配下の者の話によると、小川で何度も嘔吐していたようですよ、彼女は」

「……嘔吐」

「ええ。それを目にして、クラウディウスを始めとしたガルダトイアの者達の様子が一気に張り詰めたようです。其処には書いていないのですが、その際、ガリス騎士団総長ベルトラン・バレスも其の場に居て激昂。彼女に向かっていったようで、エインズワース卿の手によって始末されたようです」

「早々に此方で処分しておけば良かった。あのような無能は。……しかし嘔吐か。生水か何か、火を通していないものを口にしたのだろう。当たると分かっていても口にせざるを得ない状況だった、というところだろうな」


 トリエスの王は執務机に片肘をつき、指で眉を擦りながら思案顔になる。


「……堕胎薬か」

「まあ、それは正直仕方がない行為ではないかと俺は思いますよ。貴方ならまずは利用する事を考えるでしょうが、此方を格下と思っているガルダトイアなら」

「だが、」

「事実はどうであれ、第三者から見れば彼女はいつ身籠ってもおかしくなく見えましたからね。入り浸りだったでしょう、貴方の部屋にずっと。トリエス国王に深く寵愛されて囲われているようにしか、どうしたって見えませんでしたよ」

「たとえそうであったとしても、食中毒症状と妊娠初期症状を見誤るのは、」

「向こうは懐妊していてもおかしくはないと想定していたんですよ。そんな状況下で嘔吐なんてされたら、真っ先に妊娠だと思うでしょう。自分たちが平気な生水に当たったなんて、まず考えない」

「…………」

「これに関しては貴方の失態ですよ、陛下。やりすぎたんだ。影響力を見誤った。ヴィルフリートに彼女が現れた最初の頃に言われたでしょう。目算を誤っていると」

「………………」


 ディルクの言った事に反論が出来ないのだろう、トリエスの王は眉を擦っていた手を黄金の髪の中に差し込んだ。


「救いは彼女が懐妊していなかったという事です」

「……そうだな。悪評高いガルダトイアの堕胎薬を服用したのだから、暫くは副作用に苦しむと思うが」

「あの薬は後遺症とか大丈夫なんですよね? 不妊に繋がるとか」

「ああ、それは大丈夫だと思うとしか。とりあえず、そういう事例は耳にした事が無い」

「まあ、そうでしょうね。向こうも、王太子妃である彼女に夫であるクラウディウスの子を身籠ってもらいたい訳だし」

「…………」

「陛下、俺の時間があまりありません。続きに目を通して、早く今後の指示を仰ぎたいんですが」

「……分かった」


 黄金の髪に差し込んでいた手を抜き、トリエスの王はダルスアーダ王の親書を読む事を再開した。

 少しして、何とも言えないといったような様子でトリエスの王は口を開く。


「ダルスアーダ王は本気で大きい恩を売りたいようだな」

「ええ、呆れる程に。まあ、向こうも必死なのでしょう。国内が安定してきたとはいえ、地盤をもっと固めたいはずですから。あの国は内輪揉めが長期に渡って酷過ぎた。此方を当面は気にしたくはないのでしょうね」

「だろうな。小娘にダルスアーダ王族に伝わる秘薬という名の毒を飲ませたそうだ。致死量ではない、後遺症も残らない、だが暫くの間は昏睡状態になるという」

「ああ、俺も読みました」

「クラウディウスが大きい神術を使う度に酷い痛みを伴うようだと。今後の移動にそれを感じなくて済むように、また此方側の準備が整うまでの間の様々な危険を排除する為に、と」

「彼女は王太子妃ですからね。人妻ですから、そういう意味も含まれているでしょう」

「…………」

「ガルダトイア側も強い堕胎薬を彼女に飲ませたんです。昏睡の原因はそれと考え、毒の存在を疑う事はないでしょう」

「そうだな。……だが、堕胎薬に毒と立て続けに飲まされた小娘の体が心配だ」

「それを今言ったところで仕方がない。秘薬の効果が完全に消えて本調子になる前に、彼女の奪取を最低でも達成できなければ、ダルスアーダ王の行為が無駄になるだけです。―――ところで陛下」


 呼ばれて、トリエスの王が親書からディルクに視線の先を移した。


「……なんだ」

「諸々の事を踏まえ、今から耳に痛い事を敢えて言いますよ、俺は」

「……耳に痛い事?」

「ええ。陛下、貴方が失えないと言った彼女は、既に他国の王太子妃、他の男のもので、人妻だった事が判明している」

「………………」

「つまり一般的には、ガルダトイアの王太子夫妻にとっての邪魔者は貴方だ。間男は貴方なんですよ、陛下。敵国の王が自国の王太子妃を部屋に引き込み、始終楽しそうに戯れる。向こうからしたら許しがたい行為で、彼女に対しても、きっとガルダトイア側は酷い裏切りを感じているでしょう」

「………………」

「諦める事は?」

「……出来ない」

「他国の王太子、それも最古の歴史を誇り、大陸一の格を持つと言われるガルダトイア神王国という国から、その妃を奪う完全な略奪者になる事が確定しますよ?」

「構わない」

「これまで以上の悪名が轟くでしょうね」

「今更だな」

「そうですか」

「ああ」

「そこまで覚悟されているのでしたら俺としてはもう何も言う事はないですね。―――では、今後の指示を早く貰いましょうか」

「少し待て。今、全てに目を通す」


 淡々とした様子でそう言って、トリエスの王は親書を手早く繰り出した。


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