第11章 陛下と私と闇に蠢く者たち
第119話
■ 第11章 陛下と私と闇に蠢く者たち について ■
この章は伏線回収がメインの章となりますが、この度、電子書籍化にあたって、
『説明不足他等々で分かり難い』と担当さまからご指摘を幾つも受け、数万文字の加筆、また改稿もしております。
これから投稿するのは、その前段階のものになりますので、『??』という箇所が散見する可能性があります。
大変申し訳ありませんxx
しかし一生懸命書きました。
どうぞ宜しくお願い致します。
************ ***** 119話 ***** ************** ****
土臭さを感じて私の意識がだんだんと浮上する。
少しずつ覚醒していく意識の中で、私は何かに包まれ、耳には知らない言語による会話が入ってくる。
今は朝なのか夜なのか、私はいつ眠りについたのか、起きて何をしないといけないのか。
―――そもそも此処は何処なのか。
そんな事を薄っすらと覚醒していく頭で考え出しながら目を開けると、背の高い木々によって陽の光が遮られた鬱蒼とした森の中に私は居た。
薄暗くて今が何時頃なのかはよく分からない。
真っ暗ではないので夜ではないのだけは分かったけれど、目を開けて把握したのは、暗い色の外套を身に纏った人達が数人、深い森の剥き出しの土の上に座っているという事だ。
「……へいか、は?」
「―――気がついた?」
異世界に転移してから目を覚ました時に当たり前のように隣に居た存在を、起きたてで掠れた声で求める。
すると、背後から私を包むように座っていた人物が話しかけてきた。
「寒くはないかな? 火を起こしたかったのだけれど、まだトリエス領内でね」
「とりえす……」
「そう。でも、あともう少しでサデヴァ領に入るから、そこまで行けば、山小屋だけれど建物の中で休む事ができるよ。―――此方を向いてごらん」
私を背後から包みこんでいた人物が、私の頬にそっと手のひらを添えて、顔の向きを変えてきた。
それによって、血の色ではあっても銀糸の長い睫毛に縁どられた美しい瞳に、私の顔が映り込む。
「パーシヴァルさま……?」
「クラウディウスだよ。私の名前はクラウディウス」
「クラウディウス、さん?」
「うん。改めて自己紹介をしよう。私はガルダトイア神王国の第二王子で王太子。そして君の―――」
『殿下、出発した方が良さそうです』
クラウディウスさんが優しい調子で私に話している時、森の奥から皆と同じ外套を身に纏った男性が現れ、彼の声を遮った。
新たに現れた男性は、クラウディウスさんの傍まで来ると片膝をつく。
男性は私には分からない言葉で話し出した。
『追ってきている気配がします。発見にまでは至っていないようですが、此方の動きに気づいているようです』
『そう。随分と早いね』
『はい。流石はと言わざるを得ません。かなりの数の者が動員されていると考えていいでしょう。殿下の神術が無ければ王都脱出ですら難しかった。―――移動方法はどうします、殿下』
そこで彼らの会話が一旦止まった。
クラウディウスさんが私の頭をゆっくりとした動きで撫で始め、横で片膝をついている男性の灰色の瞳の照準が私に合わせられる。
『―――私のみの力で目眩ましの術をかける。移動に此れ以上の神術は使わない』
『しかし、感の良い者には気づかれます』
『ネストル、はっきり言ってやれ。その女を酷使してでも神術を使って移動した方がいいと』
『ラザロス!』
クラウディウスさんが声量は抑え気味にだけれど声を荒げた。
そして、キラキラの銀髪のクラウディウスさんよりも灰色に近い銀髪で、焦げ茶色の瞳を持つ男の人に厳しい視線を投げる。
そんな視線を向けられた彼は、髪の長さは肩甲骨くらいで、後ろでひとつに纏めていた。
焦げ茶色の瞳を持つ男の人は、『い・ち・ご』のお店から路地裏に転移のような現象が起きた時に、憎々し気な声音を出していた人だ。
彼はクラウディウスさんの厳しい視線を物ともせずに、何故か私に睨みつけるような視線を送ってきた。
『では何の為にその女が居るんだ? 何の為に汚らわしき悪魔の懐から攫ってきた? 神獣から神力を引き出す為の媒体だろう?! たとえ穢れた裏切り者の分際でも、媒体としての役割を果たしてもらう為だけの存在だろうよ!』
『黙れ、ラザロス!』
『いいや、言わせてもらう! 乳兄弟の俺しか言えないようだからな! クラウディウス、目を覚ませ! その女を媒体として使うのに躊躇いがあるのなら、置いていけ、此処に! そんな無力な女ひとり、森の狼どもが直ぐさま始末してくれるさ! そしてトリエス王の配下の者が喰い荒らされた骸を発見して、ヤツらは己らの無力さを噛みしめるんだ!』
あはははっ、といった様子で焦げ茶色の瞳の彼が笑い出す。
片膝をついたままの男の人が口を開いた。
『ラザロス、声が大きい。トリエス側に此方の位置を把握される』
言うと、片膝をついた彼が私の手首を掴んだ。
何故か私はそれに既視感を覚える。
「お立ち下さい。移動します」
「あ、言葉、」
「ええ、私もトリエス語は話せます。王都では気を失われたようだが、歩けますか?」
「え? あ、はい、歩けそうです」
「良かった」
片膝をついていた男の人が立ち上がり、私も立たせるように手首をクイッと軽く引き上げる。
その動きに逆らわず素直に立ち上がった私は、若干のふらつきを覚えたけれど、そこは両足を踏ん張って堪えた。
クラウディウスさんも直ぐに立ち上がり、それに合わせて焦げ茶色の瞳の人も周囲に居た数人の人たちも全員が立ち上がる。
「大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
心配そうな様子で尋ねてくるクラウディウスさんに私が答えていると、つい先程まで片膝をついていた灰色の瞳の男の人が、懐から厚手の布のようなものを取り出した。
「今から貴女の口に巻かせて頂きます」
「えっと、あの、どうしてですか?」
「万が一にも騒がれては困るからです。我々は此処でトリエス側に捕らわれる訳にはいかない」
そう言いながら灰色の瞳の男の人が私の手首を離し、厚手の布を顔に近づけてくるのに、私は酷い恐怖を覚える。
だって―――。
「あの、あのあの、あのね? 私ってば、それを口に巻きたくないです!」
「貴女の我が儘を今は聞けない」
「そうじゃなくって!」
多分だけれど、唯一この場で意見を聞いてくれそうなクラウディウスさんの背中に、私は咄嗟に隠れた。
「そうじゃなくってね? 我が儘を言いたい訳ではなくって、あの、えっと、私ってば、絶対に騒がないです! トリエスの人達が助けに、じゃなくって、現れても、絶対に声を出しませんから、だから、口だけはふさがないで欲しいんです!」
ギュッとクラウディウスさんの外套を握り、私は訴えるのを続ける。
「本当に絶対に騒ぎません! 一言も言いません! 皆に逆らわないです! 邪魔も絶対しませんから、口だけは本当にふさがないで欲しくってっ」
そんな私の必死な訴えに、クラウディウスさんが反応してくれた。
「―――分かった。決して騒がないと約束をしてくれるなら、口はふさがない」
「クラウディウスさん……」
「うん」
クラウディウスさんが彼の外套を握る私の手を優しい手付きで外し、私の両頬を挟むように手を当てた。
「そう約束できる?」
「はい、出来ます」
「では、ふさがない」
『殿下、しかし、』
『クラウディウス、いい加減にしろよ! そんな女、信じるに値しないだろう!』
『皆、行くよ。急ごう』
後半、違う言語になっての会話になってしまったので、結局、どう話が落ち着いたのかは分からなかったけれど、私はクラウディウスさんに促されるままに森の中を歩き始めた。
鬱蒼とした森は薄暗くて視界があまり良くなく、また人の往来などは皆無なのだろう。
腐葉土が堆積していて歩き難く、所々にせり出している木々の根に足を取られる。
私の体内時計で二時間くらい歩き続けた時だ。
明らかに足手纏いな私に、焦げ茶色の瞳の男の人が忌々しそうに舌打ちをした。
『本当に置いていけよ、こんな女! それが出来ないなら、何度でも神力を引き出して、壊れるまで使い倒してしまえばいい! 役に立たないなら要らないだろう!』
焦げ茶色の瞳の彼の強い口調の言葉に、クラウディウスさんが何かを言い返そうとしたのか呼吸を僅かに止めた。
しかしそれより早く、後方を歩く灰色の瞳の男の人が先に言葉を発する。
『もう少し声を抑えろ、ラザロス、気づかれ―――』
カサリと葉が踏まれる音が斜め後方から聞こえた。
「―――居た」
その言葉に、クラウディウスさんを始めとする全員が一斉に振り向く。
勿論、私も声のした方を見たのだけれど、そこに居たのは私の知らない男の人だった。
でも新たに現れた彼の話した言葉はトリエス語で。
その彼は、ひたりと此方を見ながら指笛を鳴らし、直ぐに剣を抜いた。
「彼女を返してもらおう。その方は我が主が手元に置いておられる存在だ」
「断ると言ったら?」
そう返したのは灰色の瞳の男の人で、彼も言いながら剣を抜く。
それが合図なのか何なのかは私には全然分からなかったけれど、クラウディウスさん以外の全員が直ぐさま剣を抜いて構え、トリエス語を話す男の人の周囲にも十五人くらいの人間が現れる。
その全員が帯剣している剣を抜いた。
人数だけで言うのなら、クラウディウスさん側の方が圧倒的に不利だった。
互いに睨みつけ合うこと暫し。
どちらかが少しでも動けば、それが剣をぶつけ合う合図なのだろうと私でも分かってしまった時、クラウディウスさんが私に囁いた。
「―――ごめん。また君から力を引き出すね」
そう彼に言われた瞬間、路地裏の時よりも更に強い激痛が私を襲う。
「いっ……」
あまりの衝撃に悲鳴をあげる事すら叶わず直ぐに意識が遠のく。
そして薄れゆく私の視界に、助けに来てくれたのだろうトリエスの人たちが
私の意識がもったのは、そこまでだった。
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