第13話 雪の日

その男の趣味は散歩だ。


散歩が趣味というと、なんだか変というか、老人ぽいというかそういう印象を受けるかもしれない。でも、彼の散歩は散歩でも夜の散歩だ。だから老人は寝てる時間だ。


 車のいない道路。人のいない商店街。いつも通っている道なのに、自分以外が誰もいない世界に飛び込んだような特別感に浸れる。彼はそれが好きで、夜な夜な外を徘徊、ではなく散歩をする。


 彼はいつも通り、午前1時頃に家を出た。1月15日。外は雪がさあさあと降っていて、足元に3cm暗い雪が積もっている。体感温度はマイナス5度くらい。寒いけど、パジャマの上に着こんでいるから問題はなさそうだ。

 背筋を伸ばして、腕を大きく振りながら彼は歩き出した。商店街を回って、暗い住宅街の路地を回って帰るいつものコース。

 けど、その日はちょっと違った。


 住宅街の路地を通ると、白いフワフワのフードの付いたコートを着た女性が蹲っていた。一瞬、雪と同化していて真横になってようやく気が付いた。


「何してるの?」と彼が声を掛けようとした瞬間、彼女がいきなり襲い掛かってきた。紅い目に、鋭い八重歯と爪。吸血鬼だ。




 彼女は彼の肩を力ずよく両手で掴み、その鋭い歯を俺の首に突き立てようとしてきた。


その瞬間、ドっと音がした。


 それは、彼がそいつの首を右手で締め、雪の上に押し倒した音だった。

彼女は痙攣した腕で3秒ほど彼を掴んだままだったが、意識を失ったのか手を離してその場に伏した。彼は、その手を離して再びいつも通りの帰路に戻った。



 「どいつもこいつも救えない。」


そう彼は、空の黒と雪の白のコントラストを見上げながら呟いた。





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