偽物

バブみ道日丿宮組

お題:小説の船 制限時間:15分

偽物

 正体を探る。まさにその発想で船に乗り込んだ。

「……」

 見つかってしまえば、どうなるかわからない。

 幸いなことに船員の服の余りと思われるものを倉庫で発見することができた。

 女性用しかなかったが、まぁ問題ないはないだろう。

 僕の身体は中性的なもの。女性と思われてナンパされたこともあるし、いざセックスとなったときに男性だとは思ってなかったなどのつらい過去はある。

 いまはいま、かこはかこだ。

「……よし」

 小説家を探そう。

 今はそれだけを考えればいい。

 僕の名前を使って出してるんだ、殴られたって問題はないはずだ。

 倉庫から外に出ると、潮風が全身を撫でた。

 だいぶ沖海に出たようだ。陸地というのが見えない。

「……」

 時計を見て、スケジュールを思い出す。

 今頃はパーティが開かれてるはず。

 小説家だけが参加を許された船。

 そこで何が物語を動かすのか。プロにはプロの考えがあるに違いない。

 だが、僕の偽物は偽物に過ぎない。

 同じ内容を書けるはずがない。

 

 ……現実は僕の思考を読み取ったような作品が出されてるわけだけど。

 

 僕も小説家だ。読めばわかる。

 だからこそ、編集者はその小説が僕だと思って、出版したという。

 今回の船旅もそうだ。

 僕に連絡はこなかった。偽物に招待券がいった。

 

 つまりは僕が偽物ということになってる。


 冗談がきつい。

 いや……こんな船旅に付き合う予定はもともとなかったけれど、偽物の好きにさせるのは癇に障る。

 むしろどうやって住所を変更したのか? あるいは登録したのか。編集者に僕の連絡先は完全に知られてるし、仲のいい関係者だって知ってる。

 この船には僕の知り合いはいないから、偽物が本物のように過ごせる空間だ。そこでいったい何をするのか見極めて、やめさせる必要がある。

 僕は僕だ。偽物なんかじゃない。

「……よしっ」

 会場に潜入しよう。

 足元がすーすーする中、僕はパーティ会場に乗り込むのであった。

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偽物 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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