第6話 【絶対拒否】
この光景に強いデジャヴを感じた。
小学生時代、そして中学生時代――あの【可能性】の影響で本来の意思を、感情を、自分を失ってしまっていた彼女達の姿が脳裏を過った。
「ッ…………!!」
急激に動悸が高まり、怒りと吐き気が込み上げてくる。
万象神羅が何を目的に何故この学校へ来たのかは知らないが、俺はもう他人の心が【可能性】で捻じ曲げられてしまうことに耐えられなかった。
スライドには約束の九個目『私と関わる際は崇め過ぎないようにしなさい! 逆に気分が悪いので注意。適度な尊敬と忖度を忘れずに!』なんてふざけた命令が記されている。
舐めてんじゃねぇぞ。
俺はその場で立ち上がり、ステージに立つ少女へ激情のままに怒鳴りつけた。
「いい加減にしろ、お前!!」
「…………へ?」
スクリーンを見上げて傲然と約束事を語っていた神羅が、振り返ってこちらを見た。
天から白いスポットライトが俺に降り注ぐ。あまりの眩しさに一瞬目が眩み、腕で目元を隠した。いったい誰が操作しているんだ。
目を細める俺に浴びせられたのは光だけではなかった。
神羅の視線に合わせるように、体育館内に居る全員の注目が俺に集まっていた。まるで神羅の指示を待つかのようだ。
とんでもない無言の圧力がかかり体が竦みかけるが、その現象こそが俺の行動が間違っていないことを証明している。
「お前が【可能性】で皆のことを操っているんだろう!! 今すぐやめろ!!」
「あ……あんた……なんで……」
神羅が溶鉱炉のように朱く燃える瞳を丸くして、唖然と俺を見据える。
そして僅かな間を置いて、焦りを露わに命じた。
「そ、そいつを、こっちに連れてきなさい!!」
「なに……!?」
その言葉と同時、体育教師と思わしき魁偉な体格の厳つい男性教師が二人、俺の席へと全力で走って来た。
二人は一切の躊躇なく全力で俺の両腕を拘束するように掴み、俺は抵抗むなしく引き摺られアリーナ最前の空けたスペースへと放り出された。
体育教師達が元の位置へと戻っていくのを横目に俺は立ち上がり体勢を立て直す。
一体何をするつもりなのかと壇上に立つ神羅を強く睨みつけると、彼女は地球外生命体にでも遭遇したかのような目で、食い入るようにジッと俺のことを見下ろしていた。
すると一瞬、神羅が心から嬉しそうな笑みを浮かべた。留守番をしていて飼い主が帰ってきた時の犬のように、それはとても純粋な笑顔に見えた。
かと思うと、神羅は直ぐに元の自信満々で嘲るような表情へと戻った。
「い、居眠りでもしていたようね……! いいわ、もう一度直接命じてあげる!」
スウッと息を吸い込み、俺の目を見て告げた。
「私を、愛しなさい!!」
言葉と同時、神羅の虹彩が一際強い光条のような輝きを発したように見えた。
愛しなさい――。
やはり万象神羅の【可能性】は、他人に彼女への愛を強制し、命令に従う愛の虜と化す力のようだ。常人であれば決して抗うことのできない言葉なのだろう。
周囲の人々は、あの少女への愛を以て俺達の動向を無言で見守らされている。
だが、どれ程恐ろしい精神支配の【可能性】であろうとも、俺には効力をなさない。
「…………俺はもう誰も愛さないと決めたんだ」
強い意志で答えると、神羅の表情から高慢しきっていたような不敵な笑みが消えた。
呆気にとられた表情でたじろぎ、微かに身を引いて震える声で問いかけてくる。
「な、なんで……なんで私の【可能性】が効かないの……!?」
納得できないと目で語り、その虹彩が怒りを表現するかのように真紅の輝きを増す。
そんな彼女の問いへ、俺は凛然と答えた。
「俺の【可能性】は【
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます