第24話 第一印象
翌日。朝のホームルーム前。
早めに登校した俺は、友達百人計画を実現すべく教室前方の席に座る【照照坊主】の金城へと話しかけてみた。
「――じゃあ常にマイロープを持ち歩いているのか」
「ああ、これは俺のアイデンティティだからな」
強面の金城が不敵に微笑みを見せ、肩に背負っている極太のロープを指差した。
体格が良くてスキンヘッドで耳にピアスを沢山つけた厳つい制服姿の男がロープを持参している。なんて怪しさだ。
スキンヘッドなのは雨を晴らす際にいちいち髪が濡れるのが嫌だからとのことだが、絵面的には不審者でしかないぞ。
いや、外で男が吊られていたら髪の有無に関わらず不審者だけど。
「それに、俺は晴らし屋もやってっからよ」
「恨みをか……?」
「天気をだ!! 天気を晴らし屋だ!!」
びっくりした。どこぞの本舗の一員かと思った。
「運動会やコンサートやデート、晴れ男を望んでる奴はそこそこ居るからな。いつでも出張サービスしてるってわけだ」
そう言ってスマホの画面をドヤ顔でこちらに見せつけてくる金城。
画面には、自分の【可能性】を活かして知識や体験を売買できる有名フリーマーケットアプリ『ボクダケ!』というサイトが表示されている。
金城はゆるキャラのような可愛いてるてる坊主のアイコンをプロフィールに設定していて、本人とのギャップは最早詐欺レベル。依頼主が彼だなんて絶対に知りたくない事実だ。
しかもサービス説明欄には『よう、今から晴らすぜ!』なんてキャッチコピーが書いてある。細部まで凝っていて仕事熱心な奴だ。
値段はかなり良心的で後払いも可能らしい。
金城のように【可能性】は職業にできるものもあり、一部の判明者は自分に最適な天職を見つけやすいのが利点だ。
この晴らし屋なんて、まさに金城にしかできない仕事と言える。
自然現象に影響を与えるなんて一体どんな原理なのやら。ようはバタフライ・エフェクト的なものなのかな。
いや、正確には天気を変えているのではなく、そう見えているだけとか?
結局は意識や認識の問題とも言えるのかも……?
まぁ【可能性】に原理や理屈なんて考えるだけ無駄か。
「子供がロープに吊されてる金城を見たら怖くて泣きそうだ」
「ああ。何回警察に通報されたか分からねぇ。だから今はちゃんと布で姿を隠してる」
それはそれで怖ぇよ。
「出張てか出血サービスだな……。晴れ男なんだし空に祈るだけで晴らせればいいのにな」
「世界の何処かにはそんな【可能性】の奴も居るかもしれねぇが、現実は甘くねぇからよ。止まない雨がない以上、俺はいつまでも吊され続けるぜ」
そんな会話をし、「三割引してやるから晴らしたい時はいつでも依頼してこい」とサムズアップをする金城と無料通話アプリ『コネクト』の連絡先を交換した。
やはり初見での印象に違わず金城は話してみると爽やかな人格者だった。
見た目が厳ついのでクラスメート達は敬遠がちだが、やがて人柄が知られて慕われるようになるだろう。
俺のこともだが、人を見た目で判断しないでほしいものだ。
人間関係、意外と第一印象が悪い奴とのほうが良好な関係になって長続きするらしいし。今までの人生じゃ人間関係なんて殆どなかったから真偽は不明だけど。
すると、そこで不意に名前を強く呼ばれた。
「ちょっと、結人っ!!」
振り返ると、教室最後方の窓側にある三連結された席に、さっきまで居なかったはずの神羅と天使が既に登校していた。輝かしい金髪で室内のハイライトだ。
そんな神羅はどこから調達したのかティーカップで優雅にミルクティーを召し上がっていらっしゃるし、天使に髪の毛を櫛で梳いて整えてもらっている。随分なご身分だ。
神羅の場合、見た目は最高なのに第一印象は最悪のパターン。今後も印象が悪化することはあっても好転することはなさそうだが……。
こいつとの関係はどうなることやら。
不安に駆られながら俺は自分の席へと戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます