第2話


○鼓の音(ポンポポン、ポンポポン、ポンポポン


○アシや茅の屋根の家、粗末な部屋


○とみ、豪華な嫁入り衣装を着ている


○おっとう、おっかあは粗末な着物を着ている




N    上弦の月夜の足元に、アシやカヤの屋根がポツンと見える。外からは屋根しか見えないが、手入れの行き届いていない草の向こうに入口があった。中から、老夫婦が娘に嘆いている声が聞こえる。娘は、この家にはそぐわないような金糸入りの嫁入り衣装をまとっている。




おっとう  すまないのぅ


とみ    おっとう。


おっかあ  すまないのぅ


とみ    おっかあ。


おっとう  わしらが、百姓でなければ……


おっかあ  こんなことには……


とみ    おっとうと、おっかあのせいじゃない。これは、これは全部




N    全部……昨日のこと。おっとうが、名主みょうしゅへ呼び出された。




○○庄屋、登場。(回想シーン)




庄屋    弥太郎、ありがたく思え。今年の花嫁にお主の娘、おとみが選ばれた。


おっとう  おとみが!?


庄屋    あぁ、そうじゃ。お主の娘が、この地を救うのじゃ。


おっとう  でも、でも……おとみは……


庄屋    ほれ、支度金じゃ。(袋を投げる)


おっとう  (袋を拾いに行き、中を見る)こ、こんなに!?


庄屋    その金があれば、嫁入りの衣装を買うても、米を買う金は十分に残るぞ。


おっとう  嫁入りの衣装っていうたって、人身御供でねぇか!


庄屋    弥太郎、よう考えろ!残りの金で、残りの子に、腹いっぱい、米を食わせてやれるのじゃぞ。


おっとう  米を……腹いっぱい……


庄屋    そうじゃ、腹いっぱいな。弥太郎、お主は幸せ者だなぁ……はじめは、次から次に子を成して、いつかは一家心中する運命になるかと心配しておったが……あと、7人も、いるから安泰じゃな。




おっとう  そんなことのために、子を宿したんじゃねぇ!そんなことのために


庄屋    ……弥太郎、よう聞け。まぁ、物は考えようと言うことじゃ。お主の娘がこの地を救う。この地を救った者として名を残すのじゃ。例えばじゃ、人々が行き交う通りに、おとみの像を置こう。わしが、作らせる。雪が降る季節には、寒くないように、白いホワホワがついた、赤い着物を着させよう。これで、いつまでも、人の心におとみが残る。な、どうじゃ?こう考えると、まんざら悪い話に聞こえぬだろう。


おっとう  それでも、人身御供にはかわりゃせん。


庄屋    嫁に行くだけだ。必ずしも、死ぬとは限らん。


おっとう  でも、狐さまの元に行き、その後、娘の姿を見たものはおらん!きっと、きっと、みな、食われとる。


庄屋    弥太郎、すまないが、これはもう決定したことじゃ。くつがえすことは出来ん。その金を持って、すぐに嫁入り支度をはじめるのじゃ。いいな。




○○庄屋、退場。(回想シーン終わり)




とみ    そうさ、全部……狐が悪いんだ!


おっかあ  これ、狐さまを呼び捨てにしちゃいかん!




○狐彦、登場。紋付き袴を着ている




狐彦    誰じゃ、わしを呼び捨てにするのは!


おっとう  ひぇ~!


おっかあ  狐さま!


狐彦    生意気じゃなぁ~。


とみ    あたしだよ。


おっとう  これ!


おっかあ  おとみ!


狐彦    おとみ?あ~今年のわしの花嫁か。


とみ    夫婦になるんだ、呼び捨てにしても、いいんじゃない?


狐彦    何?小娘が~!


おっとう  やめんか、おとみ!


おっかあ  そうじゃ、狐さまに謝んなさい。


とみ    や~だね、男女平等の時代がくるんだよ~!あたしが、先取りしてもいいじゃないか!


狐彦    もう、謝っても許してやんね~ぞ~!


おっとう  狐さま、おとみはまだ子供!反抗期の真っ只中なんでさ~。(狐彦に近づく)


狐彦    それを抑えるのも、また楽しみの一つ。


おっとう  お許しを!(狐彦の元へ行き、右の手首に紐を通す)


狐彦    だめだ、だめだ!


おっかあ  そうそ、おとみは思春期真っ只中なんでさ~。(狐彦に近づく)


狐彦    恥ずかしがる姿もまた、格別じゃろうて。


おっかあ  お許しを!(狐彦の元へ行き、左の手首に紐を通す)


狐彦    お仕置きだべぇ~って、……ん?なんだこれ?




○とみ、印を組む。




とみ    引っかかったね。リン、ヒョウ、


狐彦    うお~!待て待て待て待て!お前、今年の貢物ではないな!


とみ    当たり!気付くのが遅いね~。シャ


狐彦    ちょっと、ツンデレみたいな感じでいいかなって思って。


とみ    そりゃ、残念だったね。レツ


狐彦    待て待て待て待て待て!詠むな詠むな詠むな!


とみ    詠むのを止めたら、暴れだすだろ。ゼン・・清明の名の元に・・・


狐彦    ぐわ!お前ら……。だったら……あの……庄屋のくだり……いらなかったんじゃ……


とみ    何事にもリアルさは必要だろ。滅!


狐彦    確かに(倒れる)


とみ    さて、終了っと。雪、海、おつかれっ。


式神(雪) おつかれーっす。


式神(海) おつかれさまです。(狐彦を指さして)これ、どうします?


とみ    あ、おもろ村に持ってかなきゃね。ごめん、残業になるけど。


式神(雪) 1、25倍っすよ~。


式神(海) 雪!


式神(雪) なんだよ、こう言わねぇと残業代でねぇだろ。


式神(海) なるほど。


とみ    はいはい。残業代が出るか、まずは、おもろ村に行ってから決めよ。雪、運んで。


式神(雪) 俺が?運び屋に頼みましょうよ~。


とみ    しょうがないわね~。(符を取り出し、印を詠む)むにゃむにゃむにゃ、えい。




○とみ、符を投げる。(ポワポワポワーン)


○式神(佐川A、B)、登場。




式神(佐川) 毎度~


とみ     あれ、運んで。


式神(佐川B)は~い。あ、生ものなのでチルドですね~。


式神(佐川A)よいさ、


式神(佐川B)こらさ。


式神(佐川A)よいさ、


式神(佐川B)こらさ。


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