008_降り最速が業務用とは限らない

「風」「残骸」「最速の可能性」


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 白い一台のライトバンのヘッドライトが輝く。貫く二連のビームはアスファルトにコンクリート壁、そして錆びたガードレールを浮き上がらせる。そしてハイビームが切り裂く暗闇にライトバンは滑るように割って入っていく。

 カーブ。コンクリート壁が迫り、車はブレーキと共にGを受け、後輪が滑ってケツを振る。

 前輪が路側帯の草を踏み、そしてアクセルが噴かされる。


 一瞬。


 激しいブレーキと、唸りを上げるエンジン音。

 深夜の白い亡霊は、今夜も健在、変わらず峠道を駆け下りていた。


(ん……?)


 ハイビーム。そしてエンジンブレーキ。ライトバンのドライバーは直感でブレーキを踏む。


(なんだ?)


 ライトバンのヘッドライトに照らされ、道の先に現れたそれは横転した黄色のスポーツマシン。

その残骸だった。


 ライトバンのドライバーは車を脇に寄せて、横転車と距離をとって道路に下りる。


「おい、大丈夫か!」


 と、とっさに声をかけていた。

 返る返事はない。

 ライトで見えるは長いブレーキ痕。


(マシンのパワーに頼りすぎだ)


 ぼやきつつ、ライトバンのドライバーは、ポッケから携帯端末を取り出すと、110番に電話する。


 ここは公道、レーシングサーキットでもなんでもない。しかし毎夜最速を目指す命知らずを呼び寄せる峠。その風を切るマシンの魔力は極大だ。

 しかし、その現実よりも、ライトバンのドライバーが見る、黄色の横転車の陰に佇む白影の女。


『はい、110番です。事故ですか、事件ですか?』


 ライトバンのドライバーは女を凝視し、次の瞬間携帯端末に狂ったように喚き散らす。


「黄色のスポーツカーが横転しているです。……あ、えっと今、白い女が──」

 ドライバーの視界から女が解けるように消えていた。


(なんだ今の?)


「いや、なんでもありません。事故なんです」ドライバーの口調は早口に。

『もしもし? もしもし?』


 ドライバーはその声には答えない。

 電話口の声は暫くドライバーをの呼び出しを続けていたのである。


 ◇


 そして、そんな事故のあった次の日も、さらに後の日も。

 道路はマシンを呼び寄せる。

 この峠には命知らずを呼び寄せる、なにか人を惹き付ける力があるのだろう。


 しかし、なぜ?

 その答えには、誰も答えない。


 だが。

 だががのが。


 ◇


 ……おわかりいただけただろうか?


 白い女の姿を見たものは全て──ほら、今夜も現にまたしても、けたたましいブレーキ音が鳴る。


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