009_引き出しから突然に

「動物」「タンス」「危険なヒロイン」


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 鈴香は急ぐ。時計は見た。八時。時計は見た。アマガエルの全身パジャマ。

(急いで着替えなくっちゃ)


 鈴香は着替えを取り出すべくタンスの引き出しを引く。

(え、ええ~!?)


 引き出しの中から尋常ではない光が迸る!

 彼女は赤いTシャツを一着掴み、薄れ行く意識の中光に飲み込まれていったのだ。


 ◇


 暗い石造りの部屋。薬草とアルコールの匂いが立ち込める。

 黒いローブ姿の痩せた男が一人、樫の木の杖を手に持ちなに事か呟いていた。そしてそんな男の足元に、白く輝く魔法陣に入らぬためか、猫か犬らしき茶色毛の獣が一匹お座りしている。

 男の足元の光が強くなる。


「いでよ!」


 喉も裂けんと、大声が部屋に染み渡る。

 男の呼びかけに応じ、部屋の中心に描かれた魔法陣が白く輝いた。

 そして現れる影一つ。

 緑の肌、手には赤い布切れ一つ。


「蛙人だと? ……召喚は失敗か」

 男の声は、苦味を帯びる。

 一方、呼び出された鈴香は地団駄を踏む。


「どうしてよ! 失敗って何よ!」

 と、蛙フードを頭から取る。クリッとしたお目々の、セミロングの黒髪の女の子の頭が現れる。

 そんな鈴香は黒ローブの男に食って掛かる。


「ふむ、ただの人間か。これは益々失敗だ。──召喚は失敗、と」

 男は見事な顎鬚を擦り言う。


「はあ? 言うに事欠いて、人の事を失敗失敗ってうっせえんだよ!」

 鈴香は吼える。


「ふむ、その上に召喚者である私に盾突く程に凶暴か」

「余計なお世話よ!」

 鈴香は怒鳴ると、男が右腕に握った樫の木の杖を右から左にはらい一閃する。


「百の失敗の先に成功がある。今日の失敗は明日の成功、はて、これは誰の言葉だったかな?」

「話を聞けえぇえええええええ!」

 自分を完全無視する黒ローブの男に鈴香はキレた。


 そんな鈴香に男は再びゴニョゴニョなにやら唱える。


「それ。失敗には帰ってもらおう。それ、帰れリターン!」

 黒ローブの男の樫の木の杖が再び払われる。

 が、ボトリと床に杖が転がった。


「ゲコ……!?」

 ああら、これはどうした事でしょう。

 不思議も不思議、鈴香の足元に黒ローブを着た巨大な蝦蟇がまがいるではありませんか。


 全てを見ていた猫か犬がそのがまに噛み付き引き裂き飲み込んだのだ。

 鈴香はその一瞬の出来事に、思わず大笑いする。


「あはは、自分のペットに食べらるって傑作じゃない!? で、ここはどこ? ここはいつ? そしてそんな私はどうしたらいいの?」


 ……答えるべき男はペットの胃の中だ。

 鈴香は溜息一つ、強く生きることにしたのだった。


え? それで良いのかって?

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