007_三色風船空を飛ぶ

「草」「風船」「魅惑的な欠片」


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 今日も太陽が輝いてる。多きい『ソル』と、小さき『サン』だ。ソルの光はタマゴの中身を思わせる黄見をおび、一方のサンは白い。昔の人は、二つの太陽の事を双子と呼び、もっと昔の人は、空にはソルしか存在しなかったと言う。

 おっと、忘れていた。

 私が立つ若草萌ゆこの大地、イグナカリオスの空には太陽よりも月よりも、大きな物が見える。それがこのイグナカリオスの双子星、濃緑のガーメタリオンだ。

 昔、青き空を越え、深い森の静かな池のような緑色の表面には穴が点在し、黄土色の大きな穴が見える。ガーメタリオンに足を伸ばした先人によれば(失われた古代には、空を越える手段があったのだ!)、ガーメタリオンとは違い、この大地、イグナカリオスは青いという。

 無限の空は暗く蒼く、所々に明るく輝く星々が点在するらしい。

 私が言い出したわけではない。古代の偉人の受け売りなのだがだ。


 私は赤、青、白の三色の薄紙をノリで張り合わせ、風船を作った。これらいくつもの風船には、魔物ミュータントの目を移植している。大空へ飛び立った魔物の目が見た視覚世界が、私の脳に直接届く仕掛けにした。私はこの計画の事を、これも先人の勇気にあやかり『地図上の発見計画』とつけた。


 計算では、草原から飛び立った風船はジェット気流に乗り、遠く東の果て──船乗りは『西も東も果ては海、まっさかさまに水が落ちて止まない大滝があるのだ』と言って止まない。ちなみに北と南には白い氷に覆われており、南北からは常に雪が降っているので、海の水は幾らたっても無くならず、世界の海はいつまでも底を見せないのだと言う。そう。彼ら水夫や航海士は迷信を信じているのだ!


 私には持論がある。

 それはこのイグナカリオスが、ガーメタリオンと同じように球形の、真ん丸な珠であるということ。

 異端である。

 教皇庁に知られれば、世間を騒がせ風説を流布する『男魔女』として異端裁判は避けられまい。

 だが、私は知りたいのだ。

 だから、私は目付き風船ドローンを山と作り、一人で大規模な実験に乗り出したのだ。


 まあ、実験の結果はすぐには現れまい。

 各風船が送ってくる画像情報は、魔道の技、記録石に記憶させる。

 そして、私は自分の塔で結果を見るのだ。変人の住む魔法使いの塔の主として。


 私は次々と飛翔していく風船を見送る。

 風船は青い空の向こうにとけていく。


 世界はどうなっているのだろう──そうその魅惑的な欠片を思うと、私は幸せな気分で胸が一杯になるのである。

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