第26話 国王
「陛下、あのようなことを述べられますと勇者の間で戦争が起こるかと」
「うむ、その事なら我とて百も承知。だがあの場では言うしか無かったのだ」
「ですが······」
「以前、ある勇者が来てこのようなことが起こると我に言ったのだ」
「そんな······まさか、あの!」
「皆まで言うな。分かっておる。あの言葉を我は真摯に受け止め、対策を考えてきたはずだった。だが考えていたよりも早くに表に出てきてしまった。対策もさして決まらぬ前に。以前儂はこちらの都合で勇者を呼んでしまったからには最大限のサポートをすると言ったはずだ。だが勇者とて我らと同じく人。一人一人思想も違えば、感じ方も違う。あのまま放置して置けばさらに過激となろう。ならばせめて表でやってくれればこちらも監視をしやすい」
「その通りではありますが、そのような発言を国王がしてしまうのは、品格に関わります」
「ふぅ、国王とは大変なものだ。決定するのも1人、責任の所在も1人、孤独だな。せめてあの子らにはお主のような友人1人くらいは作って欲しいの」
「······お前も人だし、俺だって人だ。ミスなんて幾らでもあるし、予想できないことがあるなんてザラにある。でもその後のカバーの仕方が大事なんじゃないか?勿論お前の親友として俺はお前が間違ってるなら堂々と言ってやる。もしお前に責任があるなら、俺も一緒に背負ってやるから、そんな気負うなよ。······出過ぎことを申して申し訳ありませんでした」
「クックック、よい。気にするな。お主のような心からの言葉が1番ありがたい。では責任を半分にする前に、仕事も半分にしようではないか」
「お戯れを。それらの書類は陛下が管轄しているものばかりではありませんか。私が手伝ったところで足でまといになるだけです」
「クックック、普段からあの言葉遣いでいればいいものを」
そんな時、扉がノックされた
「陛下、失礼します」
そして返事を聞かずに中に入ってきたのは竜宮騎士団団長のルベアだった。
「如何したのだ、ルベア団長?返事を聞かずに入るのは無礼に当たるぞ」
「その事は重々承知。それでも先程の発言、撤回して頂きたく存じます」
やはり、あの話か。ルベアは正義感溢れる子だ。あの発言では国王として弱い勇者を守らないことを意味する。
「お主の意図は分かる。だが一応述べてみよ」
「はい、勇者の中では既に頭角を現している存在が複数います。訓練を見ている限りその者らの空気はとても温厚に見えません。そして同じ実力を持つもの同士が争うのはお互いに良い刺激となりますが、強者が弱者を襲うのだけは許容しかねます」
「では別々に訓練をすれば良いのでは?」
「既に行っております。ですが、訓練外でのことは分かりません。基本的には女より男の方が強いです。そのため暴行を働く可能性もあります」
「ふむ、一応メイドには手練を用意したつもりだが」
「いえ、そういう問題ではありません。これまではやりすぎてしまったら陛下に裁かれるという防波堤がありましたが、今回の陛下の発言をきっかけに無くなってしまいました」
「······ルベア、お主の言いたいことはよく分かる」
「っでは!」
「だがな、我としては最近出会った勇者より、この城に住む騎士やメイドの方が大切なのだ。下手に勇者に干渉をしてお主らが傷つくのが嫌なのだ。今はお主らの方が強かったとしても勇者にはとてつもない才がある。その時になって復讐されるのを嫌ったのだ」
「陛下·····」
「すまぬな。こんな弱くて」
「いえ、陛下の御心は分かりました。では私が個人で動きます。その復讐は私個人に来るでしょうから、他の人達に迷惑は掛けません」
「うむ······ん?我はお主も大切だぞ?」
「はい、ですが私は勇者も大切です。ですので弱気勇者を育て、守ります。では失礼します」
そう言ってルベアは去っていった
「ルベア団長も大概ですね。ですがそこがルベアのいい所でもあります。陛下が大々的に干渉はしないと言ったが、ルベア団長が動いてくれれば他の勇者も陛下は主立って動けないだけと理解を示すでしょう」
「うぅむ、曲解して伝わったか」
「気にする必要はないかと」
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先週の分を間違ってる土曜日に投稿してしまいました。予約投稿って難しいですね(笑)。今回は少し短くなってしまいましたが、どうしても国王の真意を知っておいて欲しくて、話にしました。これがあると、ないとだとこれからの話の伝わり方が変わると思ったので。
これからもよろしくお願いします
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