第25話 忘れていくモラル

あの後、俺は城に戻りご飯を食べていた。俺は3人の顔を見て、他の奴らと違い確実に実力が身についていることを肌で感じ、少し嬉しくなる。


『国王も3人を優先して育てているようですね。そのため少し厳しい訓練となっていますが、実地訓練の時に少しでも余裕を持たせるためかと』


やはり実地訓練は外せないか。ラノベあるあるで言うなら変なトラップが作動して、仲間の1人が変なところに飛ばされて、そこでなんやかんやあって強くなって帰ってくるまでが定番だが?


『現実は小説より奇なり、とも言いますし、有り得るかもしれません。ですがそのような高度な罠が仕掛けられている場所を選ぶことは有り得ません』


ほら、手塩にかけて育てた勇者達が優秀過ぎてかなり進んだ挙句、今まで見たこともない部屋を見つけたとか?


『実地訓練の場所が完全にダンジョンに絞られてますよ?確かにダンジョンは解体作業が無い分サクサクと進めるかもしれませんが、ゆくゆくは魔王を討伐させるのです。その道中に魔物を解体してお金に変えることだってあるのです。解体は知識だけではどうにもなりません。その訓練もさせるならダンジョンよりも森や平原の方が楽です』


1回で色々なことを学ばせるなら、そっちの方が良いか。でもこの世界の知識を何も教えられず、毎日訓練している俺らに生き抜く方法を先に教えるなんてな。


『この世界より元いた世界の方が安全であることを分かっているのでしょう。そのため才能溢れる勇者をちょっとしたことで失いたくはないのでしょうね』


その事なんだけど、薄々思ってたんだけど、ラノベの場合って単独か、4人くらいか、クラスで転移されるじゃん?クラスで召喚された時って全員を育ててるけど、それって全員で魔王討伐に行くってこと?


『数が多ければその分一際輝く才能を見つけやすくなるからでは?または、魔王という個の強さの極致を相手にするならそこそこ強い者を揃えて数の暴力が妥当なのでは?』


なるほどなぁ。読む度に不思議だったんだよ。そんなの多く召喚しても強いのは4人くらいなんだから初めから4人を召喚しろよって


『そこは所謂では?』


そうだな。


「柳也?ニヤニヤして気持ち悪いぞ」


「ん?ああ、気にすんな。長年の謎が解けたんだ」


「そんな清々しい顔する程か?ま、いいや。ところで、その肉食わないなら俺にくれ」


「嫌に決まってんだろ」


俺は伸びて来たフォークを叩き落とすと、それと同時に凄まじい破裂音が響いた。


「おい!どんだけ強く弾いたんだよ!」


「馬鹿野郎!どう考えても別の音だろ!」


音の方向に視線を向けると、なんと女子生徒と男がバチバチしていた。その付近にいる連中は音に驚き動けていない。


「ちょっと!触らないでくれる!」


「んだよ、触ったくらいで減るもんじゃねぇだろ」


「あなたのような下衆に触られると気持ち悪くなるからやめて」


「んだと、ゴラァ。いつまでも虚勢張ってられると思ってんのか?」


「あら、それはあなたもでしょう?自分より弱そうな人ばっかりに威張り散らして。情けないわ」


「ア゛ア゛?こんのやろっ!」


とうとう男が女子生徒に向かって殴りかかった。しかしそれを止めたのは······。


「争い事は醜いですわよ?」


あずまぁ」


「これだから無駄にプライドの高い男は。さっさと離れてくださる?」


殴りかかった腕を受け止めたのはあずま 花蓮かれん。2年生の先輩だ。口振りから分かる通り金持ちだ。しかも御先祖様が公家だったとか。


そして受け止めた腕をはらい、そのまま突き放す。


「東ぁ、生意気やってくれたな。どうなるか分かってんのか?」


「まぁ、そこまで日本語が上手な生き物は人とインコ以外で初めて見ましたわ。あなたの種族名を教えて下さる?あ、これは失礼。そのようなことを考える知能を持っていませんでしたね」


そう言って東先輩は上品に笑う。ここまで煽りスキルが高い人を俺は動画以外で見たことが無いかもしれない。ここまでの煽りを受けた相手は当然のようにブチ切れ。


「こんの、東ぁ!」


そう言って先程までの喧嘩のような動きと違い訓練された動きを見せる。だが大口を叩くだけの力を持っている東にあっさりと躱されて、そのうえで背中に反撃を貰っていた。


そんな時だった。


「双方、収めよ!」


王様の声が響いた。それと同時に2人を包囲するように騎士団が動く。そして隠れているようだが俺ら4人をこっそり包囲している。


「先日も似たようなことが起きたな。その時、我は止めはしなかった。人とは過ちを繰り返し、成長する生き物だからだ。だからお主らが戦うことに対しては一切の文句は付けぬ。だが食事中は静かにせい。腹が減ってはいくさは出来ぬ。それは勇者様の世界の言葉であろう?で、あるならば訓練の時にでも決闘を申し出よ!我からは以上だ」


おお、王様もみんなの前で不可侵宣言かよ。でもまぁ、俺らが1番他の奴らと関わりそうな食事中のゴタゴタを禁止してくれただけありがたい。これは狙ったのか、それとも偶然か······多分偶然だろ。


「これで私達が派閥争いに関わることはかなり減るわね」


唯も同じ考えのようだな。


「そうか?案外少しずつ会話でもして誘うつもりが、その機会を奪われたんだ。一気に距離を詰めてくるかもしれないぞ?」


蓮が予想だにしないことを言う。


「蓮······お前にも考えることができるのか?」


「それくらいできるわ!馬鹿にするな!······え?唯ちゃんも凛もマジでそう思ってたの?」


「ええ」


「は、はい」


「さて、蓮の株が1つ上がったことで、蓮の言うことも一理ある。だが他の連中から見て俺らの実力は未知数だ。なんだったら自分たちが1番強いと思っているかもしれない」


先程の静まりが嘘のように喧騒が広まる中、俺らの声ば4人以外に聞こえてはいない。そして先程の蓮の言葉。蓮の言ったことは十分に可能性があると考えていたが、問題は蓮が自分の頭で考えてその結果にたどり着いたこと。これまでの蓮では絶対に有り得ないことゆえ、とてつもなく驚いた。


蓮は自分の頭で何か考えることが苦手だ。だが実力はバリバリにある。本当に勿体ない男だ。


「ええ、なんなら私達は部屋に引きこもっていると思われてそうね」


「3人は仲良い人と話さないのか?」


「そうだなぁ。昼間は訓練で忙しいし、食事中は4人で話すし、風呂は速攻で終わらせるからなぁ。そんな時間が無いのが真相かなぁ」


「私もそうね。と、いうよりできるだけ他との会話を避けてるわ。今、私達が他よりも強いと思われていないのはラッキーだしアドバンテージでもあるから。その部分を失いたくないわ」


「ゆ、唯と同じ、意見です」


「別に話したかったら話してもいいぞ?俺らの当面の目標は誰にも害されないくらいの実力を身につけることだから。そのためにも実力をつけている中で、ほかの面倒ごとはできるだけ関わりたくないからな」


「そんな目標だったのか?だが大賛成だな。強いに越したことはないないし」


「今日の午後から早速荒れると思うわ。王様が堂々と宣言してしまったもの」


「関わる、気は、ない、って全員に、言いま、したしね」


「まぁ、言うならば牽制試合が始まるだろうな。相手の誰々がどのくらい強いのかという探り合いから始まるだろう。まぁ、あのバカは倒せりゃ満足だと思うが」


本当にあのバカ野郎は行動を起こすのが早すぎる。もっと相手と自分の実力差を見極めて、絶対に勝てる相手を狙って勝負を挑めよ。


あ、僕はそんなことしませんよ?この考え方はこんなことで使うんじゃなくて、大局的に試合を有利に進める時に役に立つから、例えで出しただけだからね?


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