第24話 動き出した天才
俺は異世界に来てからやりたいことはほぼやり尽くした。魔物と戦うことは出来たし、冒険者ギルドに登録することも出来た。異世界の流派も見てみたかったが、騎士団がいるので十分だ。そしてやり残したことといえば、地球の知識での荒稼ぎであろう。
前にも話した通りお金は有限だからこそ価値がある。今の俺には元手となる金がないため、稼ぐか生み出すかしなくてはならない。できるなら店舗販売が好ましいからな。俺の自由時間は短いので、できるなら俺以外の従業員も欲しい。
『ならば奴隷が好ましいと思います。奴隷はマスターを裏切らないので、マスターの能力についても言及されることはありませんし、バレることもありません』
それが最善か。でもその資金はどうするか。創り出してもいいんだが、それだと世界での金の価値が下がることに繋がる。相対的に見れば少量だとしても、こういうところで我慢しておかないと、本当に緊急な時に迷ってしまうし、自分の中での金の価値が薄れてしまう。
『ならば、マスターが奴隷や店舗を買う資金が溜まるまで、他の店に商品を卸すというのはどうでしょうか?』
それが現実的か。
『もしくは魔法屋というのをやるのはどうでしょうか?この世界では料理に使う火は消すことはありませんが、たまに消えてしまいます。そこで魔法を使って火をつけるのです』
まぁ、その方法も少しは考えたけど、それってかなり稼ぎが少ないだろ。だって日常でできる手間を惜しんだところに漬け込んだ商売なんだから。
『はい、ですがマスターの場合地球の知識を応用したことに利用できます。例えば服を綺麗に洗うことや、水をかけても消えない火を作り出すことができます』
確かにそうだな。洗濯は風と水の応用でなんとかなるし、水をかけても消えない火は火の周りに風を展開していればどうにかなる。だがそれを固定するのが難しいだろうな。
『はい、ですのでマスターの【魔力創造】を使うのです。【魔力創造】は物体以外の概念を作り出すことが出来ます』
概念······?
『例えば地球では人間を3次元として、4次元の世界の住人がいると言われていました。しかし実体を見たものは誰一人としていないのに』
それこそが概念だと。
『【アイテムボックス】というのはただの空間です。その中にただただ物が置いてあるだけです。ですが某アニメのポケットは4次元であり、それより小さい3次元の物はいくらでも収納できます』
すなわち、不可能を可能にするのが【魔力創造】だと?
『はい。失礼ですが、マスターはアニメやラノベの世界を盲信しすぎています。現実は小説より奇なりということですし、もっと柔軟に考えてみては?』
確かにそうだな。ラノベの知識が思いの外当てはまったせいで、尚更そう思ってしまったな。ということは魔法を無限に展開し続けるのではなく、なにか別の方法を用いると。
『はい、マスターはご存知だと思います力学的エネルギー保存の法則を』
ああ、簡単に説明すると全てのエネルギーの総量は変わらないという事だな。
『はい、ですが地球では音や熱、光などに分散されてしまい全てのエネルギーを変換することは出来ませんでした。ですが魔法を用いればそのようなことが可能なのです』
音は風魔法、熱と光は火魔法、の分野ということか。魔法という概念を1度壊し、エネルギーという概念に新たに構築し直せば確かに可能だな
『はい、エリィの考えでは魔法とは魔力をエネルギーに変換する手段であると考えます。しかしその変換を超えて新たに作りだしてしまうこともあるのが魔法です。魔法は未知な部分が多いです』
エリィでも分からないか。魔法とは未知。それこそが真髄かもな。さてと、雑談が過ぎたな。信用に値する商会はどこか分かるか?
『はい、無駄な話を振って申し訳ありませんでした。信用に値し、積極的に外部の商品を取り扱っているのはカーティス商会です』
分かった
「おお、めっちゃデカイな」
俺は思わず声を漏らす。それほどまでに大きかったのだ。周辺の家屋が1階建てが殆どの中この商会はなんと3階建てなのだ。しかも大きい。
『カーティス商会は王国1の商会です。そして今の商会を取り仕切る代表であるブランは新たな商品とはきちんと契約を結び、それを遵守しています』
エリィが言うなら間違いないな。さてと、早速中に入るか。
中は見た目通りかなり広く、様々な物が扱ってあった。
『カーティス商会はここだけではなく他の場所にもあり、それぞれで扱う品が変わります。ここでは主に服などの装飾品を扱ってます。そしてここにブランがいます』
俺はエリィに支持された通り、地球でのレジにあたる場所にいる店員に話しかける。
「ここにブランという商会を取仕切る立場の者がいると聞いたが、本当か?」
「はい、ブラン様はこのカーティス商会の会長です。ブラン様になにか御用ですか?」
「ここに新しい商品を持ってくれば取り扱ってくれると聞いてね」
「そうですか。では今すぐブラン様に取り次いできます。もしブラン様の時間が空いてない場合は、待って頂くか帰って頂くことになりますが、それでもよろしいですか?」
「勿論だ」
「では少々お待ちください」
そう言って店員は奥に引っ込んだ
『ブランは今ティータイムなので暇です。そしてブランの性格からしてティータイムを優先することはありません』
エリィから耳寄りの情報を聞きつつ、俺はなんの商品を卸すか決めあぐねていた。まず貴族層を狙うか平民層を狙うか。そうして考えていると
「ブラン様の準備が整いましたので、ご案内します。ここにその商品はありますか?」
「あります」
「では」
と言って地球によくある奥との道が出来て案内される。
「やぁやぁ、君が新しい商品を持って来てくれた子かい?」
「ええ、その通りです」
「では早速その商品を見せてくれ。説明よりも先に己の目で見たいのでね」
俺は道中考えていた物を出す
「ふむ、これは見た事がないな。この形紙に似ているが、それにしては薄すぎる。しかしハンカチでもないな。これはなんだい?」
「これは俺たちはティッシュと呼んでいます」
そう、俺が紹介したのはティッシュだ。料理系だとどうしても覚めて美味しくなくなるからな。それに時期によっては売れなくなるし。
「これは主に鼻をかむ時やトイレの後にも使用します。今はトイレの後は硬い紙で吹いていますが、それではお尻が傷ついてしまいます。平民からしたらそのようなこと些細なことですが、貴族の方はどうでしょう?」
「ふむ、確かにそうだ。そのせいで困っている方もいる」
俺は経験したことないが、硬い紙でお尻を拭くときちんと拭き取るのに何回も使う必要があり、しかもお尻が痛くなるそうだ。
「そしてティッシュに付随して販売したいのが、こちらです」
俺はそのままの流れでポケットティッシュを取り出す。
「これもティッシュのようだな。だがお尻を拭き取るほどの大きさはない」
「ええ、そうです。少し触り心地を比べてみて下さい」
「ふむ······っ!小さい方が紙が優しく感じるな」
「はい、これは普通の紙よりも柔らかな感触にすることでそのティッシュよりも高級感を感じることができます。見栄を張ることが何よりも至高な貴族にとってそのような特別は何よりも素晴らしいことではありませんか?」
「全くもってその通りだ。確かに君の紹介した商品は素晴らしい。だがそれが売れるかと聞かれたら良い反応を返すことが出来ない」
「ええ、そうですね。ですがブランさんは貴族のことを理解しきれていない。貴族は金を払ってでも他と差をつけたがります。例えば一般的に発売されている常に使う物の中に極稀に全く使い心地が違うものが紛れていたらそれには価値がありませんか?」
「確かにその通りだ」
「例えそれが小さな変化だとしても、1万個のうちの1個に紛れていれば、その当たりを引くことは少なくなり、それは噂のように広がる。そしてその事が貴族の耳に止まれば······」
「その商品は特別になる、と」
「ええ、その通りです。ですが普通の商品では更に上の物を特別の用意することはできません」
「勿論だ。我々は常に最上のものを取り扱っているからな」
「ですがそれでは貴族の方々は喜ぶことはありません。貴族にとってのステータスとは高い買い物をすることではなく」
「他と差をつけること。ふぅむ、きづいていたつとりではあったが、そこまで深く利用しようとは考えたことは無かったな。うむ、これは君の商品だ、君の言った通り販売しよう。では利益はどうする?」
「相場は?」
「7:3だな。我々が3だ」
「それを8:2にして頂くことはできませんか?」
「可能かどうかで言われたら可能ではある」
「そうですか。ならば特別に裏から貴族が購入を求めてきた場合はそちらのいい値で売っていただいて結構です」
「なっ!」
それは即ちこちらで売る値段を決めていいという事だ
「ですが、こちらとしても良質な方だけを売ることはできません。ですので、1000個購入される度に1つつけましょう。これが俺のできる最大限の譲歩です。値段は後で決めるとして、まずは8:2はどうですか?」
「······分かった。認めよう。で、値段だが普通の方を銀貨10枚、良質な方を金貨10枚でどうだろうか?」
俺としては銀貨1枚で売れたら大儲けと考えていたのだが、それを遥かに上回る値段だ。ブランはそれだけの価値をこれに着けたのだろう。
「それだけ高値で買う条件として、この商品をカーティス商会、もっと言えばこの店以外に卸さないこと。そしてこれは君以外も作れるのか?」
「無理です。ですがこれを見て作り方を真似されるかもしれません」
「そうか。それは仕方ない。では君から他の者に作り方を教えないこと、他の商会、他の場所に下ろさないことを条件としよう」
「わかりました。では1週間ごとに来ましょう。その時に欲しい量を伝えてください。」
「ふむ、では普通の物を10万個くれ」
そうしてリューヤの荒稼ぎ計画は順風満帆なスタートを決めるのだった
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