第9話 再戦

俺とルベアは試合は始まったが、どちらも動かずに相手の挙動を見守っていた。お互いを取ったため試合自体はなんの変化もなく進む。そしてある時同時に攻めたのだ。


「はっ!」


「ふっ!」


俺は下から、ルベアは上から落とすような斬撃を繰り出す。それは当然かち合う。上から振り上げているルベアの方が有利だが、逆にそちらの方が力が籠っているということ。こちらが力を抜けば、相手の体勢を崩せる。そう考えたがルベアはこちらの思考を読んでいたのかさらに押し込んできた。そのまま叩き切ると言わんばかりに。


「強引だなぁ·····」


俺は一瞬に力を込めて剣を弾き、バックステップで距離を取る。


「異界より来たるのは虎。相手を翻弄し、相手を屠る草原の王」


俺は前回と同じように夢想術を使う。いや、使わざるを得なかった。このまま戦っても負ける。前回が手加減していたと嫌でも理解できる。だが、ここで負けたくはない。そして何より······


「面白ぇ。やってやろうじゃねぇか」


この緊迫した空気の中実力的に不利の戦いが何よりも面白い。こんなからとっくの昔に


俺は高速でルベアの元まで走り、剣でルベアのみぞおちを突く。しかしそれは俺の動きに反応したルベアによって防がれる。


「私も奥の手を使おう。獣王化」


そう言ってルベアは耳としっぽを生やした。すげええ!エミィは狐の獣人だったけど、ルベアは何の獣人なんだろ!めっちゃ触りてぇ!


「さっきまでの私と同じにしては困るぞ」


そう言ってルベアは俺のスピードの何倍ものスピードで暴れ回る。


「ああ、この感覚だ。やっと俺が相手が出た。頑張って?一次封印解除」


俺は1つ目の封印を解除する。すると先程まで俺にラッシュをかけていたるベアの動きがピタッと止まり、バックステップで後ろに下がった。


「どうした?早くやろうぜ?」


俺はルベアと同じ速さになるように調しながらルベアに向かっていく。そして剣を振る速さもルベアと同じにし、本当ににルベアと戦う。


ふむ、ルベアは実践型か。少しづつだがこの試合で上手くなっている。それともスキルの効果か?


俺が上から振り下ろすと、横から軌道をずらされる。俺が横から振り抜くと、上から起動をずらされる。その場その場で適切な判断ができているな。だがそれでも剣を自在に操ることは出来てないな。


その激しい攻防が10分もの間続いた。始まりがあれば終わりがあるように、この試合も終わりに近づいていた。


「はぁ、はぁ、はぁ」


「やっぱ、その技は消耗が激しいのか?それとも疲れただけか?」


そういや、獣王化って言ってたな。獣化じゃないのか?


「ま、これから訓練もあるし、そろそろ幕切れだな」


俺は再度ルベアに近づく。そして上から袈裟懸けに振り下ろす。しかし俺が振り下ろしたところにルベアはいなかった。


「避けたか」


あんなに疲れてたのにそれだけの体力があるのが驚きだ。演技ということはなさそうだし。気力だけで動いてんなら賞賛ものだ。


俺の背後から仕掛ける剣を体をずらして回避。そのままみぞおちに裏拳を打ち込む。


「うっ」


それを回避するだけの余裕がなかったようで、そのままるベアは地面に倒れてしまう。


「勝者、勇者リューヤ!」


「すげええ!リューヤが団長に勝っちまったぞ!」


「しかも団長本気出してんのによ!」


「ナイスだ、柳也!」


「誰か、ルベアを回復させてやってくれ。疲れるだけかもしれんが、一応気絶してるからな」


しばらくしてルベアは目覚めた。


「素振りを開始しろ!勇者様達にはそれぞれ教えてやってくれ!リューヤは私についてきてくれ」


なんで俺だけ?と思いつつも、3人を置いてルベアについて行く。すると城では無い建物に案内される。


「なぁ、ここはどこなんだ?」


「ここは竜宮騎士団の宿舎だ。本部も兼ねてあるがな」


「なんで俺を連れて来たんだ?」


「ちょっと待ってくれ」


そう言ってルベアは建物の中に1人で入っていく。何があるんだろ?しばらくして出てきたルベアにある紙を渡される。


「これはなんだ?」


「これは訓練自由権と言ってな。各騎士団の団長にしか発行できないものだ。これがあれば訓練は受けなくてもいいことになる。リューヤは城の外に出れるのだから尚更必要だろう?」


確かにそうだな。あの王様の流れるような空気でブラック企業みたいなことを押し付けてくるからな。本物はもっとすごいんだろうけど。


「感謝する」


「だ、だが、訓練に参加しなくて言い訳じゃないぞ?いくらリューヤが強くてもいつまでもだらけていると私が追い抜かしてしまうからな?」


「はははっ、それは楽しみだ」


そういうことなので、俺は早速その権利を行使させていただく。訓練を抜けて早速城の外に出る。














城の大きさは規格外だが、城の外にある町は大きさ的には普通の家だな。てか、街に何があるのか聞いてなかったな。金も貰ってないし。エリィ、この世界の通貨は?


『通貨の単位はペルです。硬貨を使っています。下から銅貨、銀貨、金貨、大金貨、白金貨。日本円で表すなら銅貨が100円で、銀貨は1万円、金貨は100万円、大金貨は1億円、白金貨は100億円ですね』


へぇ、白金貨なんて使う機会あるのか?


『この世界では貴族の収入と平民の収入には天と地程の差があります。それは国王の城を見ればよく分かると思います』


確かにそうだな。学校が入るくらい大きい部屋があって、全校生徒+先生に一人一部屋与えられるくらい大きい城なんてどんだけ金をかけてるんだか。


『平民と貴族だとお金の価値基準が違いますので、日本円だとあまり当てはまらないかもしれません』


平民にとっての1万円は貴族にとっての100円ってことか?


『一概にそうは言えませんが、その通りです』


平民と貴族の平均年収は?


『平民の普通の年収は銀貨数十枚です。50枚貰えたら高所得となります。貴族だと1番位の低い男爵でも金貨数枚になります』


うわっ、全然違うな。そんなに差ができるのか?


『はい。ですが冒険者の中でもAやSランクにもなると依頼を受ける頻度にもよりますが大金貨ほど稼げることもあります』


そりゃすごいな。銀貨数十枚ってのは労働者だろ?経営者はどうなんだ?


『売れている商会だと年に白金貨まで稼げます』


なるほどねぇ。エリィは日本の物で商品化するなら何がいいと思う?


『何か条件はありますか?』


消耗品であることと、使う頻度が高いこと。出来れば使う魔力が少ない方がいいな。


『ならたい焼き屋さんとかどうでしょうか?たい焼き自体は低コストで作れそうですし、食べたらなくなります。貴族にでも高値で売ることだって出来ると思います』


貴族かぁ。なんか命令されそうで嫌だな。出来れば冒険者あたりに売れたらいいんだけどな。


『ならマッチとかどうでしょうか?冒険者は野営が多いですし、魔力を使わないのでかなり売れると思います』


それはいい案だな。しかもマッチの作り方は多分真似出来ないだろうな。よし、それにしよう。まずは従業員の確保だな。うーん、給料を払うにしても金がかかる。多少なら金を作っても怒られないか。


俺は銅貨を100枚、銀貨を100枚作り出す。すると体からごっそりと魔力が抜かれ、気分が悪くなる


「うっ」


『マスター!魔力酔いです!一瞬で魔力を消費したため起こる現象です』


そんなにか?どれくらい消費したんだ?


『硬貨1枚につき魔力の消費は10ですが、200枚ということです2000も消費しています。これは魔法の中でもかなり上位の魔法を使ったと同じくらいの消費です』


そうか。神様にもっと魔力量を上げてもらおうかな。


『そうですね。マッチの売れ行きを考えるなら、魔力量も1億は欲しいですね』


え、そんなに?


『はい、普通火を起こすには魔法を使うか、原始的に木を擦り合わせるしかありません。魔法を使うと魔力が減るので戦闘面での不安が残りますし、木を擦り合わせるのはとても疲れる上面倒です。そんな時にちょっとしたひと手間で火がつけられる魔法のアイテムが出てきたらランクが上の冒険者だって欲しがります』


そこまでか?


『それに加え普通の平民も火は欲しがります。現代の日本と違いガスコンロを捻れば火が出るわけではありませんから。一度ついた火は暖炉にも使えますし』


確かにな。そう考えればそれだけは納得だな。今から神様に願いに行くか?


『いえ、マスターには成長率100倍がついてますから。レベルの上がり方も100倍ですし、ステータスの伸びも100倍です。それにマスターの運は測定不能なので適当に歩いているだけでも向こうから幸運がやってきますよ』


そういやそうだったな。あれって計測不能って意味だったのか。エリィは始めに何した方がいいと思う?


『まずは冒険者ギルドで登録することをオススメします』


理由は?


『マスターはこの世界においての身分が何もありません。なので手っ取り早く身分証が手に入る冒険者になるべきですね。その後は国王に城の外に出る許可を貰って、冒険者のランクをCまで上げるといいでしょう。Cまで上げればある程度の地位は確立されるので。その後は商業ギルドに登録。そこで奴隷を買うといいでしょう』


奴隷?そんなものまでいるのか。そういうのは嫌だな


『いえ、マスターだからこそです。奴隷の扱いというのは基本はです。なので給料は貰えませんし、衣食住の保証もされてません。ですがマスターは必ずその保証をしますし、給料も渡すでしょう。それは奴隷にとっては救いの道なのです』


······そうか。分かった。奴隷を買おう。その前に装備を整えないとな。あ、そういやアリスは?


『部屋に置きっぱなしです······』


俺はアリスを取りに帰るのだった



✭✭✭✭✭✭✭✭✭✭✭✭✭✭✭✭✭✭✭✭✭✭✭✭✭✭


100PVになりました。読者の方々からしたらたかが100PVだと思いますが、自分にとっては初めての経験でとても嬉しいです。今のところ駆逐録なのに全くその要素が出てきてないのは本当に申し訳ないです。自分的には一日一日を丁寧に書いて行けたらなぁと思ってます。一日一話投稿なので頻度としては遅いと思いますが、学生の身分でテスト勉強なども含めるとこれが限界です(泣)。これからも読んでくださると嬉しいです

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