第2話 It's a fateful encounter (それは運命の出会い)



今日は木漏れ日が綺麗だ。花の上品な匂いが屋敷中を漂う

こういう日は外で剣術稽古が1番いいかもしれない

春の晴れの日はちょうどいい気温。外で過ごす人もきっと多いだろう

外を見れば蝶々は優雅に羽ばたき、鳥どもは囁き会う

池の水は陽の光で輝き、草花は優しく揺れる


私の体を見て、そして自身の体を抱きしめる


私の目的があるとはいえ、まだ5歳の私

精神年齢が33歳とは言え、体は子供

私には自分を守れる力をまず得ないといけない

そのためには力をつけ名声を得るしかない

いくら名門家でも優秀でなければ捨てられる

まだ5歳の私はただ剣技と頭脳を磨くしかない


私は壁にかかってある約70センチ近くの剣を取った

そして剣を鞘から少し出した

剣は錆びること無く陽の光を反射し輝いている


人を殺すことは好きではない

でもそうしなければ私も家族も死ぬ。そして目的を果たせないまま……

変なことを考えるのはやめにしよう

それよりも磨くことに頭を集中させろ


私は剣を持ち鍛錬場に向かう



この時間は休憩にになっている

本来であれば父の部下に鍛錬してもらうはずだったが急に任務が立て続きになり休みになった

青色のアイリスが植わってる花壇に置いた



とりあえず準備体操と柔軟を始める

しっかりと準備体操をしないと怪我の原因になる

その後に訓練場を5週走る

訓練場は1週500メートルくらいある。なかなか広い


走り終わったあとは腕立て伏せを100回し、腹筋、背筋も100回する。その後にスクワットを20回し、体幹トレーニングをそれぞれ1分半する

それを終わったら休憩を少し挟む


剣をとり、体の重心や持ち方などの注意点に気をつけながら振る

大体1000回


幼子にここまでさせるこの家はおかしいかもしれない

でも私の一族は『皇帝の騎士』

誰よりも勇ましく、そして賢くなければならない

そのための鍛錬なら耐えなければならない。それにこの鍛錬の結果得た力は私を守る盾にもなる

そのためなら努力を惜しまない



一通り終えたら体の柔軟を徹底的にやる

マッサージも時間をかける


マッサージも終わったし、部屋に戻ろう。それそろ講義の時間だったはず

私は立ち上がった。そして服に着いた土を落とし、庭園にある水場へ向かう

「ユリアス様」

私は振り向いた

「……クレア。何か用?」

クレアはくせっ毛のある茶髪にエメラルドグリーンの瞳を持つクールなメイド。彼女は落ち着いているので楽に接せる

「ユリアス様。ご主人様がお呼びです」

「そう。分かった。今から着替えるから少し遅れると伝えて」

「かしこまりました」


私は手を洗い服を着替えたあと、父が居る執務室へ訪れた

小さな体にはとてつもなく大きく感じる扉。黒檀で作られているから壮大かつ威厳高く感じる


その扉を2回ノックする

「お父様……」

「入りなさい」

すると父は扉を開け、私を手招きした。とても優しそうな笑顔で

「はい」

中に入り、座ることを許容されたのでソファに座った


「ユリアス。今度、陛下へ謁見する時にお前を連れてくるように陛下に言われた」

「はい」

「その……。断る用事とかはないか?」


苦笑いして私に詰寄る。要は友達と遊ぶ約束があるとか理由をつけたいらしい。そもそも2回も断ってるのにこれ以上断っては家の名声に関わる


「ありません」

「うーむ。娘を連れて行きたくないのだ。あんな危なくて怖いところに……」


つぶらな瞳で私を見つめる

私の父は優しげで愛らしい顔をしているのでこういう風に詰め寄られると子犬にせがまれている気分になる

とは言え、家のため。ここは鬼になるべきだろう


「命令ならば行くのは当然でしょう。お父様」

「やはりそうだな。うん。そうだな……。だかなユリアス。お前は可愛い。故に連れて行きたくないのだ」

「それをそのまま陛下に申されては?」

「そんなことしたら剣聖としての建前が…」


建前もクソもないような気がするけど…

そもそもバカ親なのは有名なのよね。普通は子供のお茶会とかに参加させるのが筋なのに全部断ってるんだから

もう親バカなのは少しバレてる


「きっと笑って流してくれます。父上のバカ親振りは娘の私が頭を悩ますほどです」

「んなっ!?酷いぞ。ユリアス。私はお前が可愛いからな……」

「そのせいで1度もお茶会に行っていないのは問題です。私は病弱ではありませんし、マナーもできます」

「だかな……。だかな……」

「これ以上引き伸ばしては要らぬ噂を産みます。陛下はそれを懸念されてお呼びになさったのでしょう?」

「うっ……。それはそうだが……」

「ならば行くべきでしょう?」

「ユリアス。なんでお前はそんなに賢くなってしまったのだ?」

「お父様が親バカだからです。このままだと妹どころか家が心配です」

「うー。分かった。連れていく。だが、そのあとはハグしてくれ」

……いつかビンタでも食らわした方が良さそうね

「はぁ……。分かりました」

「そうか!ユリアス!ありがとう」


そう言って抱きしめてきた

やはり父は親バカだ。この程度で騒ぐことではないだろうに

いや、明確にはが正解か



数週間後、私は皇宮を訪れた

父の手を繋ぎ、幼子さながらに歩く

小鳥の声に涼やかな若草の風を感じながら

もう少ししたら梅雨が始まりそうだ


ふと父が止まったので足を止め前を向くと壮大な二枚開きの扉が現れた。装飾も美しい

父は何か手札を護衛に見せると侍従だちはお辞儀をし、その扉は開いた


目の前には真っ直ぐに敷かれたレッドカーペット

王座は数段上にあり、1人の男の人が座ってる

年齢は父と近そうだ

黒髪に黄金の瞳の麗しい。その太刀住まいは堂々としていて威厳を感じる


数十本歩き、父が止まったので私はそこで跪いた

「威厳高き陛下にお目にかかります」

「立て」

父と私は立ち上がり陛下を見る

「その小娘がお前の娘か」

「はい」

「お初にお目にかかります。ユリアス・レイラ・ウィティリアと申します」

私は軽く会釈した

「そうかそうか。黒髪に赤い瞳。サンクリークの加護を受けたのか」

「はい」

「さぞかし勇ましい娘になるだろうな」

「……はい」

心ばり父が悲しそうだ。陛下が私を見る目も若干、苦しそうな顔をしている。

この感じ…、初めて屋敷に来たメイドもこんな顔をしていた。サンクリークの加護には何かがある?


「それよりもやっと娘を連れてきたか。ウィティリア家の次期当主にあたる子を中々連れて来ようとせぬから、ユリアスが病弱なのかと心配して居たのだぞ?全く、心配して損したな」

「それは大変ご迷惑をおかけ致しました」

父はゆっくりとお辞儀した

「うむ。だか見る限りだと聡明で賢く逞しい子のようだな」

「そのような……。口ばかりが働いて困っております」


ここでしっかりとお灸を据えておこう。それに弁明にもなる


「それは父が中々、お茶会に出る許可を頂けないからです」

「なっ……。それは……」

「陛下にお呼び出しがかかってるのに中々、連れていこうとなされませんし。これでは家の名声が心配です」

すると皇帝は大笑いした

「だそうだぞ?」

「うっ……。ユリアス!この件に関しては話さない約束だったぞ?!」

父は怒ってる。でも私に弱いのか表情が少し崩れている。どうやら娘の可愛さにやられてるらしい

やはりこの父はバカ親で子犬っぽい……

「そうですか。なら明日のミネストローネはお父様だけ抜きに致しましょう」

「んなっ!?それだけは……。ユリアス、これだけは勘弁してくれ」


そう言いながら私に手を合わせてお願いしてくる。目は子犬のようなのだからまたまた困ってしまう

とは言えこれに関しては鬼になるべきだろう

昔からの動物好きがこのような形で影響するとは……


「なら見逃してください」

「うぅ……。分かった。見逃す」

するとまた皇帝は大笑いした

「健気な娘だな。確かに口はよく回る」

「本当に困ったものです。一体誰に似たのだか……」


すると大きな物音が横から聞こえてきた

かなり謁見の間は広いのでよく響く

誰かが倒れたのか零したのか分からないけど中々の大きな物音だった

物音をした方へ見るとそこには銀髪に黄金色の瞳の少年がいた

正直、天使が落ちてきたのかと少し思ってしまうほどに綺麗な子だった


「なぜお前がここに居る?」

すると男の子はびっくりしたあとオドオドし始めた

「……綺麗な子」

「申し訳ありません。お父上」

一瞬で空気が変わった。冷たくて尖っている


この年で皇宮にいるとしたら皇子だろう。銀髪の皇子……

もしかして第1皇子?

となると納得する。ユリアスが一目惚れするほどに美しい人。きっと愛を捨てる前の私なら惚れていたな

それにしても息子なのに何故ここまで冷たいの?子供が間違って入っては行けない部屋に入るのはよくあること

叱るのは分かるけどまるでこれは殺気や狂気に近い

第1皇子がとても可哀想に感じる。もしかして第1皇子は皇帝に愛されなかったから権力に固執するようになった?


「アダム」

すると1人の青年が皇帝の前へ現れる

「ノアを部屋へ連れて行け」

「かしこまりました」

その青年は皇子を卑しい目で見た。どうしても私には苦痛に感じてしまった。親に人に愛されない寂しさは辛い…

「陛下!」

「なんだユリアス」

「その…。その方と遊んでもよろしいでしょうか」

「ユリアス……。この方は」

私は父に頷き微笑んだ

「先程も申しましたが、父のせいでお友達が1人も居ないのです。失礼かもしれませんが許可を頂けませんか?」

「ならば第2皇子と……」

「その…。沢山のお友達と遊ぶのは怖いので…」

「……」

「よろしいでしょうか?陛下」

「……ユリアス嬢」

「はい」

「なぜその子と遊びたいのだ?」

「おっちょこちょいだからです。私の母はよく失敗して怪我をします。だからその方も心配でほっとけないのです」


陛下は私をじっとみた。そして何かを察したのだろう。ため息をついた。父に至っては苦渋の面を浮かべている

もしかしたら皇帝は第1皇子に力を持たせたくないのかもしれない


「……そうか。好きにすればいい」

「ありがとうございます」

私は皇帝に向かって丁寧に会釈した

「ユリアス。失礼のないように」

「分かりました。お父様」


そして男の子の方を見る

さっき居た従者は立ち去ったらしく居なくなっていた

私は男の子の方へ向かい対面した。人見知りらしく柱に隠れた

「ねぇ、お名前なんて言うの?私はユリアスって言うの」

「……ノア」

「ノアって言うのね。さっきは何してたの?隠れんぼ?鬼ごっこ?」

「……」

言えないことをしていたのか。恐らくこの様子だとあまり良い話ではなさそう

「じゃぁ、私と冠を作らない?私の屋敷には沢山のバラやシロツメクサが生えているの。だからね、冠を作るのが得意なの!」

「女の子の遊びはやだ」

「えー。じゃぁ追いかけっこ?」

「走るの嫌い」

「うー。じゃぁ隠れんぼ」

「見つけてくれない」

「……。なら散歩でもする?」

「歩くだけは退屈で面白くない」

「えー。これじゃ遊べないよ。やっぱり冠を作ろうよ」

「嫌だ」

「大きくなって大好きな人に作ってあげるととっても喜ぶよ?私のお父様もよく作ってお母様にあげるの。ノアには大好きな人いる?」

「うん。お母様」

「ならそのお母様のために一緒に作ろう?」

「分かった」


私は父の方を見る。父はゆっくりと頷き、護衛の1人を貸してくれた

私とノアは庭園に訪れた。庭師に説明すると理解してくれたらしく、シロツメクサが沢山咲く場所を教えてくれた



「ねぇ。ノア、ここをこう絡ませるの。それでこれを何回も繰り返すとね。シロツメクサの冠ができるの。綺麗でしょ?」

ノアは器用に冠を作っていく。手先が器用みたいだ

「……こう?」

「そう!上手」

「女の子の遊びだと思ってたけど楽しいね」

「そうでしょ?それでね。ここにある黄色い花をねシロツメクサみたいにやるとね綺麗になるの」

「確かにこの方が綺麗だね」

「うん。そうだね」

綺麗に冠を作っていく。色んなところに生えている野花を摘み色鮮やかに作る

「それでね。最後はここをね。茎で止めるの。するとほら!出来上がり」

そして私は出来上がったばかりの花冠をノアにかぶらせる。黄色と白のコントラストが美しい花冠はノアにとてもよく似合っている

「ユリアス」

「なに?」

「僕は男の子だけど?」

「うーん。確かにそうだけど。でも、誰も見てないからたまにはいいんじゃない?」

「良くない!男のプライドが傷付いた」

「でもよく似合ってる。まるで天使様みたい」

「褒めてもダメだ」

そう言ってノアはぷりぷりしている。やはり天使なので可愛いとは思う

「それよりも。ノアの冠は出来上がったの?」

「うん。出来た」

そう言ってノアは私に冠を見せた

シロツメクサと勿忘草の花冠だった。それも均等で美しく作られている

確かコラン皇后は艶やかな銀髪に青い瞳が美しい人だと描写していた。だから白と青の花冠を作ったのか

「わぁー。綺麗だね」

「本当に?」

「うん」

「お母様。喜ぶかな?」

「きっと喜ぶよ」

「なんか嬉しいなぁ」

「ノアは手先が器用なんだね」

「そうかな?ありがとう」


そう言ってノアは頭をさすった

その時にちらっと手首についた跡が見えた


「早速、お母様に会いに行ったら?出来たての方が香りも少しあるから」

「うん。そうするよ。ありがとう」

花冠を持って立ち去ったノアを見送った


私は庭園に戻り花々を見る

春だけあってか。たくさんの花々が咲き誇り、園内を花の芳しい香りで包む。とてもいい気分になる

あの跡をみて気分よく接するのは難しい


恐らくあの子は第1皇子ノアで間違いないだろう

描写では銀髪に黄金色の瞳。まるで天使のような男の子

あんなに綺麗な人がいるものなのかと驚く

でも接してみれば分かる。月のように内気だけど優しい

それが環境や関係で歪んでしまうのが惜しい


口には出さないが恐らく皇帝はノアに1ミリも愛も興味もない

それに手首に縛った跡があった

もしかしたら皇后によるものかもしれない

子供はよく泣くしよく暴れる。邪魔でうるさいが故に縛り付けてもおかしくはない。とは言え確証はないから断定は出来ない

それに明らかに体が細い。私よりも10センチも身長が低いのはおかしい。多少は発育が遅いという理由で説明つくけど明らかにやせ細ってるし発育に問題が出ている


もしも皇后が縛り付けあまりご飯も与えていなかったら

そしてもしもノアが野生の勘なのかは分からないけど何かを察知して逃げてきたとするならば。帰さないのが良い答えだったのでは?


とは言え推測にしかならないし体をしっかり調べないと皇后のネグレクトが判明しない



それにしても部外者がやっと気にして気づくなんてあまりにもお粗末だ

こうな目に会っていたらノアがおかしくなってしまうのも分かる

私の出来ることはなるべく会いに行ってあげて、メイドや皇后の監視と食事を摂らせること。今の私には発言権がない。助けてあげることも出来ない

でも子供の無知はノアを恐ろしい。時には子供の発言によって死ぬ事もある

皇后であるならばある程度はそういうのは知っているだろう



それを利用してノアを少しでも良くしてあげること以外、直接的にしてあげることは無い

とは言え、証拠の集めやすいのは事実。子供がまさか証拠を集め訴えるなどありえない

今のうちに集めて来る時に訴えよう

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