第1話 どういうことよ・・・

「・・・?」

 まばゆい光が治まると、そこは立川競輪場だった。

 しかし、一つ違うことがある。アリサはすぐに気づいた。今までいたのは、場外発売開催中の立川競輪場。時間で言えば、午前十一時を過ぎたくらいだった。だが、今は・・・。


「これどういうことよ・・・」

 アリサがいたのは、開場前の立川競輪場ゲート。時刻で言えば、まだ午前七時前くらいだろうか。そして、彼女の目の前には、あの老紳士がいた。

「私は競輪の神様だと言っただろう?だから、私の力をお前に見せてやったわい」

 得意げに語る老紳士を前に、アリサの酔いは完全に消えていた。一気に警戒モードの彼女。この老人、普通ではない。


「おじいちゃんは本当に神様なの?」

「まだ疑うか、小娘よ。ほれ、これを」

 老紳士はスマホと茶封筒をアリサへ差し出す。

「これは・・・?」

 恐る恐る受け取るアリサ。

「君に与えられたチャンスだ」

「どういうことよ・・・?」


「ところで、ここは思う?」

「どこって、立川競輪場でしょう・・・」

 目の前にはいつも見慣れた競輪場。特別競輪や競輪GPを母や妹と共に観に来た場所だ。

「ここは、本当に君の知る立川競輪場か?」

「えっ?」

 老紳士の言葉に寒気がしたアリサ。何か良くないことが起きている。そう直感した。彼女は自分のスマホを取り出す。しかし、そこには母や妹や友人の連絡先が全て消えていた。


 顔が青くなるアリサ。老紳士を睨む。

「おじいちゃん。いや、神様は何をしたの?」

「気づいてくれたな?ここは異世界じゃよ」

「異世界・・・」

 その言葉に眩暈めまいがするアリサ。本当に勘弁してほしい。そういうのはネット小説の世界だけにしてほしい。


「正しく言えば、『平行世界』かな?今のお前には、家族も友人もいない」

「私をどうするつもり?」

「競輪をしよう」

 ニコッと微笑む老紳士。そこには、最初に感じた品位と風格があった。

「競輪を?」

 恐る恐る尋ねるアリサ。

「そうじゃ。。私の条件をクリアすれば、元の世界へと返す」

「ひとついいですか?」

 ゆっくり手を上げるアリサ。

は、私の知る世界の競輪と、どう異なりますか?」

「いい質問じゃな。これを渡す」

 そう言って老紳士は目の前にスポーツ紙を出してみせた。


「競輪記事を読んでみなさい」

 アリサはスポーツ紙を受け取り、競輪記事を読む。文章を読みながら、アリサは落ち着いて今の状況を分析した。

「ここは並行世界で、競輪の形は変わらない。違いと言えば、存在している選手とかですか?」

 短い時間で想像したことを確認するアリサ。

「うむ。察しが良い子じゃな。今日は寛仁親王牌GⅠの決勝戦が行われる。この並行世界での寛仁親王牌じゃ」


 アリサは素早く記事を一通り読んだ。このスポーツ紙によれば、この並行世界の寛仁親王牌は弥彦競輪場で行われている。そして、今、まさにいる今日が決勝戦の日。少なくとも、アリサ自身の記憶では、彼女のいた世界の寛仁親王牌は今年、青森での開催のはず。弥彦での開催ではない。しかも、決勝戦に出る選手は聞いたことも、見たこともない選手ばかりだった。

「で、私がすべきことは?」

 単刀直入に聞くアリサ。すると、自称・競輪の神様は再度微笑みかけてくる。

「決勝戦で二車単を当てろ」

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