第一章 禁断の魔道士(16)
「アスボルト!」
燭台に五本の蝋燭(ろうそく)をおき呪文を唱えた。
誰もいない深夜の食堂に小さな蝋燭の明かりがともされ、すき間風によって頼りなさげにユラユラとゆれうごく。
軸心をかなめとして燃えあがる炎は三人の陰影を色濃く浮き彫らせた。
「な、何よ」
「怖ぇぇょ」
「アンタもね!」
暗闇にてらしだされたそれは、まるで空中にうかぶ生首のよう。
面白い半分、わざと光量をしぼり、ふふ、と笑声をあげるなどしてそれらしさを演出してみる。
「アホか!おどろかすんじゃねぇ! 」
「それはこっちのセリフよ!どこの落ち武者かとおもったわ」
「お、お、落武者!?」
はぁ、と嘆息をはいたティアヌは、自称魔剣士なる男を見る。
「こういうのをノミの心臓っていうのね、勉強になるわ。学校でただ机にかじりついてただけじゃ経験できなかったわ」
「なっ!?言わせておけば……」
「ぁ」
試しに無表情をとりつくろい、セルティガの背後を指さしてみる。
「!?」
ギクリ、と肝をつぶしかけたような表情から、血の気がひかれていく。
おそらく指の先を確認する余裕もないのだろう。
苦学生と連呼され、ドついてやりたかったのでいい気味である。
「さっきからちょっとしたことでスッゴい驚いてみせるじゃない、だからノミの心臓ってそういう意味。怖くないなら、振り返るなりしてみなさいよ、ほら」
催促してみる。
「………ぶっ飛ばす」
「そう腐らないで。元気だしなさいよ、恥じることはないわ。どこの世界でも怖がりな人ほど誰よりも長く生きているもの。むしろ本能、いえ、動物的で、逆に良いことよ?」
名誉や誇りなど、ご飯のおかずにもならない。
大事なのは、三度のメシと今日も明日も生きること。
「良くないわ! なぐさめにもならん。むしろお前のそのデリカシーの無さをぶっ飛ばしたい。俺はな、その手の冗談は大っ嫌いなんだよ!!」
するとセイラが割ってはいった。
「まぁまぁ落ち着いて。本当のことだから~言われてもしかたないんじゃなぁい?」
「……………」
「それより座りましょうよ」
「そうね」
「チッ!」
三人は蝋燭のまわりをかこむかたちでおもむろに椅子へ腰をおろし、人心地ついたのか一仕事したことによる達成感が安堵の息をもたらせた。
沈痛なおももちで疲れきった体を椅子にあずけ、重い空気のなか誰一人として口を開かない。
この状況を第三者からみたら、真夜中の怪談話中…そんな風に思われてもおかしくない居心地の悪さ。
てんでバラバラに座っていた三人は話が遠いという理由から一つの丸い円卓をかこんだ。一見して円卓の騎士さながらだ。
「そもそも魔法とは二種類あるのよ」
本題をきりだすと、セルティガは「ほぅ~?」と感嘆の一声をあげた。
「ちょっとぉ、アンタってばつくづく博学精神ってものを欠いている。人間ってのは死ぬまで何かを学びつづける生きモノだそうよ。よくそれでスクールを卒業できたもんだわ」
セイラは教員に対し完全なる節穴あつかい。
「網の目をかいくぐりうまくのりきった。自慢じゃないが俺は剣豪、剣の達人。いや、剣の鬼とまで呼ばれた」
スクールとは分野ごとにわけられ、魔道士養成科、一般教養普通科、職業専門科などがある。
魔道士養成科にも魔道士、白魔道士、魔剣士、時空魔法士、精霊召喚術士などとわけられ、魔道士は魔道の術をきわめるのはもちろんのこと、魔剣士や精霊召喚術士も魔道の初歩を学ぶ。
その例としてファイヤーブレス(火竜玉)やサルボル(水球蝦蟇)などがあげられる。
これは一番初歩の魔道術。それほどの威力は期待できないがその人なりの『魔道六柱』(シックスピラー)にもよる。
魔道六柱とは精神状態とも深く関係し、術を発動させるのにかかせない必要な魔力をうみだす動力。早い話が車のバッテリーのようなものだ。
肝心要、精神柱(メンタル)・知力柱・(インテリジェンス)・体力柱(ストレンジ)・直感力柱(インスピレーション)・魔力柱(マジカルパワー)・第六感柱(シックスセンス)が融合してはじめて術が発動する。
つまり六柱の値が大きければ蓄えられるエネルギーも多く威力のある難易度の高い術があつかえる。
しかし六柱の値が小さい者が仮に同じ術を発動させたとして、同じ威力とはかぎらない。実力と才能がものをいう…とてもシビアな世界なのだ。
「は? 剣の鬼? なにそれ……」
「俺は歴史に名を刻む男。なんせセントワーム魔道士学校、歴代のなかでも一・二を争うほどの男とまで呼ばれたからな」
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