第一章 禁断の魔道士(15)
「精霊をなんとかできたなら、ちゃんと私のことを名前で呼ぶって言ってたじゃない」
「何もそんな些細なことでそんなに俺を凄むこともないじゃないか、なぁ苦学生」
さ、些細なこと?
ティアヌにとっては死活問題にもひとしい。
「もっと気楽にいこうぜ、気楽に、苦学生」
「苦学生なんて私のことを呼ばないでください! 私には母がつけてくれた可愛らしい名前があります。エスタ=ティアヌ」
エスタとはこの国の古くからの言葉で、星や大地などの大いなるものを意味し、ティアヌとはお姫様とかそんな意味合いの言葉である。
これらの古くからの言葉は初期の魔道書、大神官が所持していたとされる魔道書によく用いられ、神代文字の名残との学術的な根拠にもとづく説もあるのだ。
「エスタ=ティアヌ? どこかで聞いた名だな………」
「約束は守りましょう! 少なくともあなたは大人なんだから、約束したことを守るなんて社会の常識ですよね?」
するとセルティガはヒラヒラと手をふった。
「あぁ、わかっているよ」
その時、これまでに感じたことのない一抹の不安をおぼえた。
「一回試しに呼んでみて」
「はぁ~? 俺は愛するハニーの名前しか呼ばない主義なんだ。それでも呼んでほしいのか?」
はっ、ハニー? ぐぇェ………ッ!!
顔面蒼白させたセルティガのこの一言に吐き気をもよおさずにはいられなかった。
「遠慮しておく」
セルティガは勝ち誇って背中をのけぞらす。些末、高笑いまでうかべた。
やられた!
まったくもって大人げない。
うまくあしらわれた。
この無念をいつか晴らそうと固く心に誓った。
苦虫を噛みつぶしたような苦々しい心境。
三人は場所をうつし食堂へとむかった。
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