第一章 禁断の魔道士(8)

「俺は自慢じゃないが呪文系統は得意ではない。剣の方なら超絶技巧なる剣さばきをご披露できるんだがな」




それほど魔剣士は自らの技癢(ぎよう)にたいし自信があるのか、腰に佩(は)いた柄頭(つかがしら)に手をやる。




どのクラスにも一人はかならずいるという無意味な自信にあふれ頭を使うより体が反応するスポーツ派。




人を落ちこぼれよばわりしておいて。結局は魔剣士とは名ばかりだったくせに。


挙句の果てには、呪文系統は得意じゃない、なんてぬかす。


面の皮の厚さだけなら世界一周レベル。



呪文もろくに唱えられない魔剣士。それって、ほぼただの剣士?



ぷ、と小さく吹き出しかけたが、興奮さめやらぬ自称魔剣士は気づけなかったようだ。



「船長なんだろ? やれるものならやってみろ!もし水怪獣と精霊をなんとかできたなら名前でちゃんと呼んでやる。男に二言はない、苦学生」




むむッ!? またもやこの魔剣士、口をひらけば苦学生…苦学生とぉ~!




なかば売り言葉に買い言葉だった。




「そこまで言うのなら呼んでもらおうじゃないの」




再びティアヌは呪文の詠唱をはじめた。






【゛……闇に閉ざされし漆黒のローブをまといし精霊よ……風が奏でる調べをきけ。



風よ、常黄泉を祓え!……゛】





「特殊召喚、セラフィム!」




ティアヌの唱えた力ある言葉に風がこたえた。




甲板にそよそよと春のような麗らかな風がながれ、夜風は生温く不自然さに身震いをおぼえた。




夜空に一筋の光が天より降りそそがれる。




その光とともに白銀に耀(かがよ)う白い何かが現れようとしていた。



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