第一章 禁断の魔道士(7)

魔剣士は道をゆずり腕をくんだ。そしてついでのように馬鹿にした風に鼻を鳴らす。




ティアヌはそれを黙殺(もくさつ)でかわし漆黒の闇をみつめた。




マストの先に黒い塊が移動し青白く発光している。




「水の精霊の成れの果て………か」




このとき水の精霊の異変が水怪獣を狂わせている、そう確信をえた。




「まずは水怪獣から手をつけますか」




暗い海から死霊の声(もの)らしき奇妙な音がする。水怪獣の呻(うめ)き声だ。




「ハァ~」




不気味だ。しかも気持ちの悪いことこの上もない。




船を取り囲むようにして集まった水怪獣からなんとしても船を守らなければ虚海への旅は航海初日にして、初っ端(しょっぱな)から出鼻をくじかれここで断念せざるをえなくなる。




゛………正直かなりメンドウ………゛




大枚(たいまい)をはたいて雇った魔剣士は口ほどにもなかった。弱いイヌほどよく吠えるとはこのことか。



とかく精霊使いの女僧の評価にたいして明言はさけておく。その実力のほどをまだはかりかねているからだ。




……船長だもの、船員を守るのはぎむ、よね。





呪文の詠唱(えいしょう)にはいる。




「アイスプリゾン!(氷の牢獄)」




対象物すべてが氷つく呪文。広範囲に有効であり、足止めをするには最適な呪文だ。




「な、なにぃ!? 凍り付いた……しかも二〇〇体近くもいる水怪獣をすべて、一瞬で」




船体の周囲は一時的に凍り付き、水怪獣は氷の彫刻のように微動だにできない。




精霊使いの若い女僧も首をかしげる。




「聞いた事がない呪文ねぇ~?」




魔剣士は剣をかまえなおした。




「足止めは成功したが、精霊(゛黒幕゛)をなんとかしないとラグーンに行き着く前に天国を見ることになるぞ」




水怪獣を裏で操っているのは他でもない水の精霊ザルゴン。




冒険書いわく、精霊の導きあらば最果ての島へたどりつける。




ならばこの水怪獣の襲撃もなんらかの暗示の一つなのだろうか。




精霊使いの女僧はますますやる気なさげにティアヌに目線で指示をあおぐ。




「どうするぅ?」




「どうするって、ちなみにセイラさん……やる気あります?」




女僧を胡乱(うろん)げに見やる。




「ぜ~んぜぇ~ん」




゛………やっぱり? 見るからにそんな気がする、他力本願派?………゛




お手並み拝見といった感じにセイラは傍観(ぼうかん)を決め込む。




セイラは船旅に慣れているのか水怪獣が船を取り囲もうと顔色ひとつ変えやしない。むしろ水怪獣が現れたぐらいのことでなぜそれほど騒ぐのか理解できず不快に感じているようにもみえる。



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