第一章 禁断の魔道士(6)

「じゅあどうしたらいいんだ? 精霊使いが精霊を従えられない前代未聞のこの状態を」




「とりあえず……大神官様にでも、祈っとくぅ?」




その昔、大神官は精霊界の均衡と秩序が乱れたとき、ふたたび精霊と人との絆を取り戻す条約を結んだ、と今に伝説が伝えられている。




「しかし……祈るだけで何とかなるものなのか?」




美しきお姉様は天をあおぎ手をあわせた。




「神のみぞ知る……」




「オィ…それって困ったときの神頼みってヤツか?」




魔剣士は深く刻まれた額のシワに手を押し当てる。




「大神官、かぁ」




魔剣士は夥(おびただ)しい水怪獣の大群を目の子勘定でもするように目線を走らせる。




「祈ってどうにかなるものならいっそのこと藁にでも縋りたい。水怪獣を船から遠ざけないと一時間もたたないうちに沈没。せめて遠ざけることができたなら、なんとかこの難局をのりきれそうなんだが」




ティアヌは男の背後にまわりこんだ。




「あのぉ………」




すると魔剣士は後方をふりかえりつつ、チッ! と舌打ちをし、さも嫌そうに睨(ね)めつけることも忘れない。




「あぁ? なんだ、デキの悪い苦学生」




なんとも無礼きわまりない。




「私はべつにデキが悪いわけじゃありません! たしかにスクールは留年しましたけど」




「留年じたいが異常だっつうの! 普通に単位とれていればありえん。のんきな学生風情がシャシャりでてくればかえって怪我をして足手まとい、おとなしく引っ込んでいろ!」




この魔剣士の一言一言は如何せん理不尽きわまりない。陰険さもくわわってすこぶる甚(はなは)だもって腹立たしさ倍増だ。




「では、そのデキの悪い苦学生から一言。



なぜ水怪獣に火竜玉なんてナンセンスな呪文を?」




「なんでって……水には火、だろう?」




ぷぷぷっ。思わず噴き出した。




「失敬な!な、なんで笑うんだ!!」




「水怪獣は精霊族。安易に水属性だからって火属性の呪文を使ったってなんとかなるものじゃないでしょう? 普通に学校の授業をうけていてなぜそれがわからないのかしら?」




本の虫のティアヌ。ティアヌにかかれば御茶の子さいさいな基礎知識。知らない方がおかしいのだ。




「そこまで言うのならお前がやってみろ。水怪獣を遠ざけることができなかったら遠慮なく笑い飛ばしてやるから、苦学生」




「苦学生言うな!言うほど私は苦学じゃない」




魔剣士は上から下までティアヌを一瞥(いちべつ)した。




「ほぉ~?」




「顎がはずれるまでお好きに笑うなりなんとでもどうぞ?」




ティアヌは魔剣士の陰湿な視線をかるくいなした。





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