10月23日 土曜 晴れ
うつりと
堀幸
浴室の鏡に映った
自分の顔を見る
目が死んでいる
生きている心地がしない
良く晴れた土曜日
行くべき場所に
行けなかった私
それなのに 私は
出かけてくると
言葉を残して
外へ出る
駅でICカードにチャージする
どこへ向かおうとしているのか
私にも分からない
死に場所でも探しているのだろうか
オレンジ色の電車に乗る
東京行き
マスクをして
死んだ目を伏せている
誰も気にすらしないだろう
そんなことを考えている
どこへ向かおうとしているのか
普段は行きたくない
勤務先のある東へと向かっている
ベビーカーを押して
子供を抱えた人に
席を譲る
吉祥寺で降りた
笑顔と雑音が
苦しいほどに溢れている
私は雑沓にまぎれる
ファミリーマートで
ワインの小瓶を買い
井の頭公園へと向かう
空を見上げる
こんな私にも 陽は暖かい
気持ちの良い風が吹いている
座れるベンチはあるだろうか
探しながら
家族連れの多い園内を歩く
同じように
スタバのカップを片手に
ベンチを探している女性と
ふと目が合い
マスク越しに微笑まれ
どぎまぎする
空いているベンチを
ようやく見つけて
座る
ワインの蓋を開け
飲んではいけないアルコールを
何ヵ月ぶりかに
一口 二口と飲む
白ワインが
点滴を受けているのかのように
少しずつ
身体中に広がっていくのが分かる
少し涙の味がする
私がどこへ向かおうとしていたのか
わかった
誰かからの
届かない
届くことのない
応えを
ただ待っていただけだった
どこへ向かっていたのか
私の心の内へ
ただひたすらに
涙が頬を伝い
私は放心する
10月23日 土曜 晴れ うつりと @hottori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます