第11話 二つのチーム

 炎児たちはスクランブル発進の準備をしていた。耐Gスーツに着替え、各自ギャザーマシンに乗り込む。もう一体のギャザーロボはもう海岸線にまで来ている。研究所までは何分もない。

「俊魔! 雷光! 準備はいいか!」

「いいぜ!」

「おう、俺もだ!」

 発進シークエンス、格納庫内にアラートが響きオレンジの警告灯が回る。

「パワー、ノーマル、オン。航行支援システム起動。エネルギー伝達回路、開く。火器管制システム起動。雷光、武装はいつでも使えるようにしておけ」

「了解だ! エネルギーはばっちりよ!」

「ギャザーチーム、発進!」

 スロットル、開く。一気に加速しカタパルトを上昇していく。離陸。更にパワーを上げて旋回、海岸線に向かう。

「よし、みんな! 合体だ!」

 発進シークエンス起動。ギャザーコンドル、ギャザーシャーク、ギャザーエレファントの軸が揃う。

「ゴー! ギャザー、ゴー!」

 各機連結。そして各機体が変形、手足が進展し頭部がせり出す。合体完了だ。

「雷光! 距離は!」

「距離八〇〇〇! 向こうはマッハ1だ!」

「だったらこっちはマッハ2だ! 歯を食いしばれ!」

 パワー、ミリタリー。スロットル最大。9Gで加速する。フルパワー。全身が押さえつけられるが、しかし耐えて体を起こし更に増速する。なるべく研究所から離れたところで接近したい。

「ぐぐ……十五秒で交差するぞ……」

 加速のGに耐え、雷光が声を振り絞る。

 炎児もレーダーで相手の姿を捉えていた。肉眼でも小さな点で確認できる。その点が少しずつ大きくなる。あと十秒。

「こちらギャザーチーム。応答願う」

 炎児の声だった。向こうのギャザーチームだ。

 相手のロボが減速する。それに合わせこちらも減速。距離二〇〇〇。相手の姿が見える。確かにギャザーロボだ。俺たちと同じ姿。

「こちらギャザーチーム。停止しろ! それ以上の接近は攻撃とみなす」

 炎児が返答すると、向こうも炎児が返答する。

「了解した。停止する。ただしエネルギーがない。地上に降下する」

「了解。ゆっくり降下せよ」

 炎児は自分の声を聞いて奇妙な感覚に襲われた。別宇宙の俺たち。ギャザーチーム。しかし本当か? 彼らは棘皮星人の作り出したダミーロボットではないのか? その疑いもあるが、今はともかく交信するしかない。恐らく相手もそう思っているだろう。不審な点があれば、容赦なく攻撃する。その思いのはずだ。

 距離二百。一足飛びの間合いだ。相手のロボは地上に降下して直立している。こちらも降下して地面に降りる。

「そちらの所属を問う。何者か」

「我々は西園寺研究所所属のギャザーチームだ。俺は草原炎児。後二名のパイロットが登場している。矢羽俊魔、轟雷光だ」

「……我々も西園寺研究所所属のギャザーチームだ。俺は草原炎児。あとの二人は矢羽俊魔、轟雷光……同じだな」

「そのようだ」

「お前たちは何をしに来たんだ」

「我々の宇宙で異常な現象が起こった。壊れた建物が出現したり、人が行方不明になったりという事象が起きた。それは平行宇宙……つまり今いるこの宇宙から何らかの影響を受けていると考え、原因を調べに来た」

「そうか。こちらでも同じような事象が起きている。新品の建物が現れ、亡くなったはずの人が現れた。そちらとは恐らく逆だ。そちらでいなくなった人は、恐らくこちらの世界で亡くなった人だと思われる」

「何だって? 亡くなった……ひょっとして頭足星人との戦いで犠牲になったのか」

「頭足星人? 何だそれは。この世界では棘皮星人と戦っている。棘皮星人との戦いで犠牲になった人たちだ」

「棘皮星人は、俺たちの宇宙では半年前に壊滅させた。現在は新たに現れた頭足星人と戦いを続けている」

 棘皮獣を壊滅させたのか。元の宇宙の炎児は思った。戦績のいい宇宙というだけはある。個別の戦いで勝っているだけでなく、根本的に勝利しているとは。だが新たな頭足星人が現れたとは……こちらの宇宙でも、やがて現れるのだろうか。

「君たちの宇宙では何か特別なことが起きていないか? お互いの宇宙の異常事態の原因となる何かが、起きているはずなんだ」

 別宇宙の炎児が言った。

「それは……」

 言うべきか迷ったが、元炎児は正直に話すことにした。解決するためには彼らの協力も必要になるかもしれないのだ。

「俺たちはギャザーロボのエネルギー不足を解決するために第二種粒子収集装置を開発した。それは宇宙の外に放出されているギャザー粒子を取り込むものだが、その稼動試験の際に別宇宙の存在を観測したんだ。そして昨日の夜から今日の朝型にかけて別宇宙から放出される粒子濃度を観測した。恐らくそれが原因だ。別の宇宙の情報を観測したことで、何らかの影響が生じたんだ」

「何だって?! お前らが原因を作ったのか!」

 別ギャザーロボが一歩前に出る。飛び掛からんばかりの気迫が伝わってくる。しかし、それも無理もない。他ならぬギャザーロボが原因なのだ。怒るのも当然だ。

「だが分かってくれ。俺達にも全く不測の事態だったんだ。別の宇宙の観測をすることがどんな影響を及ぼすかなんて分からなかったんだ」

「ならば軽々しくやるべきではなかった。それだけの話だ。大体……お前たちは本当にギャザーチームなのか? この宇宙の棘皮星人が化けて、俺たちの宇宙にも攻撃を仕掛けているんじゃないのか」

 別炎児が敵意を隠そうともせずに言った。

 これはまずいな。元炎児はそう思ったが、しかし、非はこちらにある。責めを負うべきはこちらだ。しかしだからと言って、棘皮星人呼ばわりされて黙っているわけにはいかない。

「それは誤解だ。俺たちは人間、ギャザーチームだ」

「それを証明するものはあるのか?」

 別炎児の言葉に、元俊魔が割り込む。

「おい、人の宇宙に勝手に上がり込んで、お前は本物かは無いだろう。真贋を問うなら貴様らの方だ。お前たちこそ頭足星人とやらじゃないのか?」

「何だと?! ふざけるな、俺たちは人間だ!」

 別炎児が声を荒げる。二体のロボの間に不穏な気配が高まっていく。

「……確かめる簡単な方法がある」

 別炎児が言う。そして別ギャザー1が一歩前に出た。

「そうだな……」

 元炎児もロボを身構えさせる。一触即発だ。

 別ギャザー1の口からギャザーレーザーが放たれた。炎児はロボの膝を抜いて姿勢を低くし回避。そのまま前傾し倒れるように加速、走った。

「うおおおっ!」

「うおおおっ!」

 二人の炎児は吠え、二体のギャザー1が組み合う。手四つになり互いのロボが軋みを上げる。パワーは互角だった。

「ぬうっ!」

 元炎児が右手を離し殴りかかる。

 別炎児は拳をロボの額で受ける。そして組み合ったままの手を下に引いて元ギャザー1の姿勢を崩す。そこで膝蹴り。豪快な衝突音が響き、元ギャザーロボは後方に飛ばされる。

 二体は離れて向き合った。殴り合いでは埒が明かない。二人とも同じことを感じ取った。

「ギャザーソード!」

『ギャザーソード』

 同時にソードを肩の収納から射出し、剣の柄をつかんで一気にソードを伸展させる。

 二体は同時に斬り掛かる。刃と刃がぶつかり火花を散らす。鍔迫り合い。ガリガリと刃が削れ飛ぶ。

『おうっ!』

 別ギャザー1が腕の力で元ギャザー1を付き飛ばす。そして踏み込みながら袈裟斬り。元炎児は下がらずに、ギャザー1を前に出してソードをソードで受ける。三度の斬撃を受け斬り、今度は反撃に出る。

「せやっ!」

 前蹴りで別ギャザー1の腹を蹴って付き飛ばす。そしてギャザーレーザー。だが別ギャザー1はソードでレーザーを受けて防御する。

「ええい、じれったい! 炎児! 俺に代われ!」

 元俊魔が言う。

 別ギャザー1は右腕を伸ばし元ギャザー1に向ける。そして袖部分のスリットからギャザー手裏剣を射出。これは別ギャザー1にしかない武装だ。

 元炎児は突然射出された手裏剣に目を剥く。しかし、初見の武器で仕掛けてくるのは棘皮星人も同じだ。別ギャザー1の右腕がこちらに向いた時点で、元炎児は回避の体勢に入っていた。

 足元を狙った手裏剣をバク宙させ、元炎児はギャザー1を分離させる。

「ギャザーオープン!」

 バク宙しながら合体を解除。ギャザーシャークが一番上に移動し、ギャザーコンドルが二番目、ギャザーエレファントはそのまま三番目。ギャザー2の形態だ。

 バク宙から着地の時点で合体を完了。

「食らいなっ!」

 元俊魔はスロットルを最大開度に。瞬時に15Gの加速をし、元ギャザー2は亜音速で別ギャザー1に仕掛ける。ハンマーアームの三連撃。別ギャザー1は一撃目はソードで受けたが、二撃目と三撃目はまともに食らう。別ギャザー1のコクピットが揺れ電装が火花が散らす。

 元ギャザー2はさらに加速。音速を超え四方から連続攻撃を繰り出す。

「ソニックアタック!」

 ハンマーアームとドリルハンドの絶え間ない連続攻撃。別ギャザー1はあまりの速度に翻弄される。だが、黙ってやられているギャザーロボではない。

『ギャザービーム、発射!』

 別ギャザー1が水平に撃ち出したギャザービームで横に薙ぐ。元ギャザー2は避け切れずに姿勢を崩しビームに弾き飛ばされる。

『とどめは俺に任せろ!』

『ギャザーオープン!』

 今度は別ギャザー1が分離。ギャザーエレファントが一番目、ギャザーシャークが二番目、ギャザーコンドルが三番目。ギャザー3だ。

『うおお! よくも好き放題殴ってくれたな! お返しだ!』

 別ギャザー3は背中からミサイルを取り出し、元ギャザー2に向かって投げた。

 ギャザーミサイル。その威力はTNT火薬1キロトンの破壊力であり、小さな町なら軽く吹き飛ばす。そして、どちらのギャザーロボも爆発の衝撃にさらされた。

 爆心地からきのこ雲が上がる。爆炎が静まったそこには焼け焦げた二体のギャザーロボがいた。元ギャザー2は片膝をつき、別ギャザー3は後ろにひっくり返っていた。

『馬鹿野郎……目の前にミサイルを投げる奴があるか……』

 別俊魔が消え入りそうな声で別雷光に言う。

『すまねえ……ついカッとなっちまってよ……』

 別雷光が言う。ギャザーチームは三人とも命知らずであるが、中でも雷光は特別であった。端的に言って馬鹿である。それは元宇宙も別宇宙も変わりがないようであった。

「ぬうう……これは勝負なしだな」

 元炎児が別ギャザーロボに通信を送る。

「そのようだな。そちらの実力は分かった。本物に相違ない……」

 別炎児も答える。

「そっちの雷光の頭の出来もな。こいつは本物だぜ……」

 元俊魔が言った。

 危うく殺し合うところだったが、雷光のおかげで未然に終わった。殺気立っていた心もどこか晴れやかである。未知の現象、別の宇宙への不安が恐怖心となっていたが、戦いの中で六人は心を通じ合わせたのだ。

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