第10話 交錯
第二種粒子収集装置は停止した。念のため従来型の第一種粒子収集装置も停止させてある。現在西園寺研究所では、ギャザー粒子収集の一切を行なっていなかった。
しかし、異常な事態は止まらない。それどころか規模を増し、現象が拡大していた。
「今度は死んだはずの人が現れただって? 今度は一体何なんだ?」
炎児達は司令室で瑪瑙からの報告を聞いて頭を抱えた。
もう一つの大気質研究所に現れた八人は、先日の襲撃で亡くなった人達だった。それだけではない。水質分析センターでも四人が発見された。その四人も死んだはずの四人であった。
いずれも意識はなく、呼びかけにも応答しない。現場には救急車が出動し、現れた人は搬送中だ。
「うむ……そうですか……分かりました。はい、また情報をお願いします」
西園寺所長は受話器を置き、溜息をついた。
「地質総合解析所と超高密度材料研究所も……隣に新しい建物が出現した。そして内部には人が倒れており、その人達は死んだはずの人達だ……信じられん。別の宇宙から来たというのか」
所長は信じられないというようにかぶりを振った。
「辻褄は合うんじゃないですか、所長」
俊魔が手にした報告書を叩く。
「別宇宙のまともな建物が来た。そして死んだはずの人も来た。これで人員は揃うし、その人たちを新しい建物に座らせれば元通りってわけだ」
「だが何故だ? もう粒子は収集しておらん。なのに異常は止まらない。何が原因だというんだ?」
「さあね? 瑛美女史に聞いてみるしかないんじゃないですか?」
「ううむ。このまま異常が止まらなければ……瑛美君が言ったように宇宙が一つになってしまうのか」
「もしくは宇宙が消える」
俊魔が手で弾ける様子をジェスチャーした。
「何たることだ。しかしもう何が起きてもわしは驚かんぞ。次は何が出てくる。倒したはずの棘皮獣か?」
「向こうの宇宙では戦績がいい。だから棘皮獣も倒してる。それはないでしょう。壊れた建物、死んだ人たち。次は、向こうだけで起きた事故とかがあれば、それが再現されるのでは?」
炎児が言った。
「事故か。こちらでは無事、向こうでは壊れている。つまり壊れた何かが現れる」
ううむと所長は腕組みをする。
「それだけならいい。ガス爆発のようなことが実際に起こらないとも限らない」
「こちらでも同じような被害か。待てよ、そうなるとどうなるんじゃ? こちらの宇宙の記録も書き換わることになる」
「それが統合という事でしょう。どちらも壊れたという情報に収束する。そして、研究所は二つ並んでいるが、それはその状態で固定化されるのかもしれない。上書きではなく、ペーストされる」
「瑛美君は上書きと言っていたが、両方残るのか。どっちにしろ初めての現象だ。どちらに転ぶかは分からん……」
所長は目頭を押さえて俯いた。
その所長の机の電話がけたたましく鳴り響いた。緊急用の内線だ。
「西園寺だ。どうした。……何?! もう一つのギャザーロボが? 研究所に向かっている? ううむ……!」
「あっ、所長! しっかりしてください!」
目を回した所長に炎児が走り寄る。
「もう一つのギャザーロボが現れた……乗っているのは炎児、君たちだ……彼らはそう名乗っている」
「何ですって?! 俺たちが……!」
俺たちは生きている。しかし、もう一人の俺たちが来た? つまり、俺たちは……まさか……。
嫌な想像がよぎる。だが、今は出動しなければならない。研究所に向かってくるもう一体のギャザーロボを止めなければ。敵か、味方か。俺たち自身で確かめねばならない。
裂け目を通ったギャザーチームは、海上で滞空していた。周囲には何もない。本当に別の宇宙に来たのか?炎児は疑問に思う。
『ここが別の宇宙なのか……見たところ変わらないな』
『それはそうだろう。同じ地球なんだからな』
『単に裂け目を通り抜けて、元の宇宙にいるだけってことはないよな』
炎児が疑問を投げかける。
『だったら間抜けだな。何か確認する方法は……』
『お、そうだ。あれを確認すればいい。ギャザー粒子濃度だ』
雷光がそう言い、ロボ内部の収集装置からのデータを確認する。裂け目を通る前と後で粒子濃度の変動パターンが大きく変わっていた。これは別の宇宙に移動した証拠となる。
『なるほど、粒子変動のパターンか』
『でかしたぞ、雷光』
『へっ、俺だってたまにはやるのさ!』
雷光が得意げに笑った。
『そうだ。雷光、測位システムは使えるのか? 研究所に向かわないと』
『少し待て……これは……使えている。同じ通信規格だな。この宇宙でもGNSSは機能している。ここは研究所の沖合二キロ。さっきの場所と同じだ』
『技術水準は同じという事か。不思議な気もするが……』
炎児の疑問を受けて俊魔が答える。
『宇宙の起源からさかのぼって別の成り立ちというわけではないんだろう。ある時点から分岐した別の宇宙。だからある程度は同じなんだろう』
『なるほどな。ある時点から……それはいつだろうな?』
『おいおい。今はそんなお勉強している場合じゃないぜ。ここが別の宇宙で異常事態の原因なら、さっさとその元凶を取り除かないと』
『ああ、そうだな。じゃあ研究所に向かうぞ』
『雷光、研究所に通信してみろ』
『ほい来た! しかしなんて通信すればいいんだ?』
『こちら別宇宙のギャザーチーム。世界の変動の解決について協力を求める、だ』
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