第7話
ユミアはラナに呼ばれたと思って、すぐに違うと悟った。
ラナはユミアをお嬢様呼ばわりしない。声も森で別れたラセルのものだ。
遠くにいるラセルが交信魔法を使って呼びかけている。ユミアは状況を把握して魔法で応答した。
――ラセルさん、ユミアです。どうしました?
――村全体が結界で覆われました。術者は不明です。用途は分かりませんが嫌な予感がします。すぐにお戻りください。
――分かりました。
交信終了。ラセルの言葉を最後に交信が切れた。
「ラナさん、お誘いを受けたところ悪いのですが……あれ?」
隣で歩いていたはずのラナがいない。
ユミアは周りを見渡して、背後に友人の背中を見つけた。
「ラナさん?」
返事はない。ラナが空を見上げている。
「なんだろ? あれ」
「え?」
あれ。
その言葉が指し示すものを確かめるべく、ユミアはラナの視線を目で追う。
人型が宙に浮いている。
人間じゃない。背からは紫の膜が伸びて翼じみた形状をとっている。
普通の人間にはあり得ない特徴だ。全体を見渡しても肌色一つない。鎧を着用しているわけでもないのに体が硬質な何かで覆われている。
「まさか――」
ユミアが危険を伝えようとした時、地面が爆ぜた。
悲鳴を上げる暇もなかった。浮遊感を経て空と地面が交互に入り混じる。
短いような、長いような浮遊感。上下感覚すら失われてざらっとした感触に包まれる。
ユミアの体は茂みの中にあった。
「……ううっ、なに、が」
痛みに顔をしかめながら記憶をたどる。
道を歩いていたらラナが空を見上げて立ち止まった。視線を追った先に異様な人型を見つけて、ラナに危険を知らせようとしたら――。
「……ラナさんは⁉」
自身が茂みの上に乗っていることに気付いて、痛む体をおして地面を踏みしめる。
周囲を視線で薙いで目を見張った。
「な、なに、これ……」
一部の地面が大きくへこんでいる。
景色を飾り付ける緑が残らず消し飛び、でこぼこした地肌が露出している。生々しい破壊の跡で地形が変わっていた。
「ラナさん! ラナさん!」
気付けば走り出していた。
あの爆発を至近距離で受けて無事とは考えにくい。一刻も早く見つけ出さないと最悪の結果を招きかねない。
ユミアは走って、叫んで、走った。
目的の人物は数分と経たず見つかった。
「ラナさん⁉」
ユミアはブーツの裏を浮かせた。あと数歩というところで足が止まる。
体の下半身がごっそりと消え失せている。断面からは命の液体が流れだし、焦げた地面を赤黒く染める。
人体の構造上、まず助からない傷だった。
「あ、ああ……ああああああああああああああああああああっ‼」
こみ上げてくる何かがユミアに声を張り上げさせた。
飛んでいた人型が近くにいるかもしれない。愚行と分かっていても、どうにもならない衝動がユミアの喉を震わせる。
何かが口元を覆った。
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