23 奇策
「ロークス」
「なんだい」
ミラは艦長席から、操縦しているロークスの背中に、言葉を投げかける。
「前に戦ったモグラ型のモ級、倒して捕食したときに、因子が手に入ってたよね」
「そうだよ。って、ミラ――」
うなずくミラ。
振り向いたロークスは、ミラの意図を察していた。
「みんな、聞いてくれる?」
ミラは、マハガの皆に呼びかける。
「これからマハガは、お尻の部分を切り離します」
「えっ?」
尻を、切り離す?
「またマハガがちょっとちっちゃくなっちゃうけど、まあ居住区画には影響ないから、あんまり気にしないでね」
「どういうことですの?」
「
「ミラ……品がないよ」
ロークスの溜息が聞こえた。
通信の向こうでコトアが顔を赤らめたのも、なんとなくわかった。
「ごめんごめん。とにかく、グ級を足止めしなくちゃならないから、マハガの一部分にモ級の因子を突っ込んで、地面に潜らせるんだ。採掘に優れたモ級の能力を使わせてもらうってこと」
「ミラ、話が見えない」
「まあいいから、見てて。ロークス、因子の部位移行は?」
「完了した。いつでもいけるよ」
「りょーかい。じゃ、いっちゃって!」
そうミラが命じた瞬間、マハガの胴体の最後部、五ミルターほどが落下した。
すると、落下した部分は形状を変え、先端の尖った円錐形となり、地面に突き刺さる。
突き刺さった円錐は、激しく自転を開始して。
瞬時に、地面へと潜っていった。
「さーて、じゃあしばらく待ちましょうか」
のんきなミラの声。
だがそのとき、グ級に異変が起きているのに気づいた。
「おい、グ級が!」
グ級の全身は、真っ青な魔法花の色に染まっていた。
全身で開花が起こったのだ。
そして頭部だった部分は、まるですぼめた指を開くように、五つの部位に分かれて展開されていく。
開いた頭部は、五号移動要塞と、その後ろにいるバリバルタに向けられていた。
奴がしようとしていることは、明らかだった。
「グ級が――撃つぞ!」
「五号! 総員、対衝撃態勢!」
サージの声が響く。
「了解! 対術多重結界装甲、励起!!」
五号艦長の野太い声が返る。
展開しきったグ級の頭部、その中心に、青い小さな光が灯る。
光は五つに分かれ、分かれた光はさらに五つに分かれ、さらにもう一度。
百二十五の青い光点は、螺旋状にねじれた筒を描いて、グ級の前に浮かび上がった。
そして、筒の中に青い光が満ちたとき。
超級の光線が、一直線に放たれた。
怒濤たる滝の流れのような光は、五号移動要塞の真正面に投じられて。
五号の黒壁のような装甲は、光線を受け止めた。
爆ぜる油のように、青い光塵が音を立てて装甲から跳ね返る。
飛び散った光は、そこかしこで地面を焦がし、溶かし、
グ級の光線と五号の装甲の衝突光は、真昼の太陽よりもまぶしかった。
次第に、光線はその太さをすぼめていき、通り雨のように散り散りの光と変わって。
そして、消えた。
「耐えた――!」
なんて装甲なんだ。
街一つぐらい消し飛びそうな光線の直撃を受けてなお。
五号は、立っていた。
その装甲を浅くすり鉢状に削られながらも、堂々とグ級に正対したままで。
「見たか!」
五号の艦長が、思わず叫ぶ。
グ級は当てが外れたとばかりに、小首をかしげるような動きをした。
「五号、装甲の状況は?」
サージが問う。
「七層のうち、第二層までに侵食発生。最低、あと二発は耐えられます」
「二発、か」
だが、と俺は思う。
グ級がどれほどの頻度で、あの光線を撃ってくるかなんてわからない。
二発分ぐらいでは、とうてい足りないんじゃないだろうか。
ミラの手立てが、早いところ実行されないとまずい。
「さっきの尻のほうはどうなってるんだ、ミラ!」
「いまやってるよ。もう少しかかるかな」
この状況にあって、ずいぶんと悠長な声音に聞こえた。
「だが、グ級が光線をあと何発か撃ったら――」
そう口にしたとき、俺はグ級に目を奪われた。
グ級の盛り上がった背が、形を変えようとしていた。
なだらかな山のような曲面は、甲虫が羽根を開くときのように、真っ二つに割れ、ゆっくりと迫り上がる。
その背甲の内部には。
ひとつひとつの花の明滅が、波のような模様を描き出す。
その波は、グ級の頭の方向に向かって打ち寄せるようにしていた。
奴は、さらなる魔力を生み出して、収束しようとしている。
ということは。
「もう一発来るぞ……さっきよりもヤバいのが」
閉じかけていたグ級の頭部が、ふたたび五本の指のように開いていく。
その狙いは、変わらず五号に向けられていた。
次のあれを撃ち込まれたら、五号の装甲がいかに厚いとはいえ……後ろにいるバリバルタだって、無事に済むかわからない。
「ミラ、まだか!」
「あと少しだから」
ミラの声は、さっきよりも焦れているように感じられた。
グ級の頭が開ききる。
そして先ほどと同じように、中央にひとつの青い光点が現れた。
光点は五つに、二十五に、そして百二十五に分かれて。
ふたたび、ねじれた光の筒を形成する。
「まずい……」
光の筒に、輝きが満ちようとした。
その瞬間。
グ級の頭が、振り落とされるように、地面に叩きつけられた。
頭部に現れていた光の筒は、その衝撃とともに消滅した。
「なんだ!?」
よく見ると、グ級の前脚が、両方とも地に埋もれていた。
まるで、空濠に脚を取られたかのように。
だが、空濠はすでに飛び越えられたあとだ。
「あれは――どういうことだ」
サージは声を上げる。この状況を見ていた誰もが、同じことを思ったに違いない。
「穴がなければ、掘ればいい」
ミラの目に、鋭い光が宿った。
「モ級の採掘因子を仕込んだマハガの一部分で、グ級の足下をめちゃくちゃに掘ってやったんだよ。グ級の重さに耐えられず、地面は落盤する、って算段」
「そういうことか……」
俺は前のめりになったグ級を見つつ、ミラの策に溜息をついていた。
ミラは艦長席から立ち上がり、通信に向けて声を張り上げた。
「指揮官! 作戦第二段階に移行可能です!」
「マハガ、よくやってくれた! これより第二段階、飽和射撃に移る!」
サージの声とともに、グ級を半円状に取り囲んだ
すなわち、十数人の魔法使いが、いっせいにグ級の身体に狙いを定めた。
「やっと出番か!」
グ級を見ると、ちょうど、さっき展開された背甲が、元に戻っていくところだった。
「ファファ、聞こえるか?」
「ティグレ、なに?」
「主砲を撃つ。魔力供給、頼んだ!」
「はーい、わかった」
ビ級のときとは違う。
今回は、ほかの
ファファひとりだけに、苦しい思いをさせるわけじゃない。
ここにいるすべての
「全砲門、射撃用意――」
命じるサージの声は、落ち着きはらっていた。
俺は、右手にファファからの魔力を感じる。
いつもどおり、莫大な魔力を流し込んでくれている。
そっと目を閉じ、ファファに礼を言う。
「ありがとな――」
ふたたび目を見開く。
右手を構えて、グ級に狙いを定める。
サージの声が、響く。
「放て!」
マハガ ~魔法の威力が高すぎて追放された俺が、巨大兵器の最強主砲になった~ キリカ @kilica13
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