夏休み最終日
何もなかった夏が終わる。
そして、特別なことは何も起こらない、受験の秋が始まる。
「宿題ちゃんとやったの⁈」
親に朝、声をかけられる。うるさい、小学生じゃないんだっつーの。
「そこそこ」
「夏休みは明日までじゃない⁈ 大丈夫なの?」
「うん」
私は踵を引っ掛けて外に出る。体を一枚ラップで包み込まれているような、モワッとした暑さが私を包む。
歩きながらつま先をトントンとすると靴を履ける。もう履き慣れたスニーカーだ。
反抗期、なのかもしれない。でも反抗しようと思えるほどエネルギーや何かがあるわけではない。消極的なもの。
進学校を自称してる私の高校は、夏休みでも大半が補習で潰れる。補習と言っても受験に間に合うには足りない授業数の埋め合わせみたいなもの。
「都会の奴らに敵うわけないじゃん」
そう、敵うわけなどない勝負に挑まなければならないのに。大手の予備校や塾がある都会と、必ず出なければいけない補習があるし、そんな受験用の予備校や塾がひとつもない田舎じゃ、勝負にならないことは分かりきっている。
朝早いとは言え、すでに日が高く昇り暑い道を歩く人は少ない。人通りの少ない道に私の独り言が吸い込まれていく。歩いて間もないのに汗がつたる。全身から吹き出すようで気持ち悪い。無風でなびかないスカートが足にぺたりとまとわりつく。この感触を男子は知らないんだろうな、と思う。せめてもと、制服のブラウスの胸のあたりを掴んでパタパタと上下させて風を起こすが、焼け石に水だ。それどころか胸の真ん中を汗が流れ落ちる、何度経験しても慣れない感触を感じた。
ああ、何もかも嫌だ。勉強も、受験も、大学に行くことも、だからと言って高校に通い続けることも。
やりたいことなんかないのに、どうやって志望先など見つければいいのか。私は周りにいる子を思い浮かべる。
「看護師になりたいの」
「資格を取るために……」
そんな崇高な理由など一つもない。私はただ、この、だだっ広い田舎から逃れたいだけ。
駅に着いた。駅の自販機でペットボトルを買う。鞄から財布を出して小銭を入れていくと、ごとん、という鈍い音がしてペットボトルが転がり落ちた。私は財布をしまい、ペットボトルを手にする。
電車が来るまではもう少し時間があるので、無人駅の入り口の、日陰になっている階段に行儀が悪いけど座り込む。
ペットボトルの蓋を捻るとプシュッと弾けるように開いた。喉が渇いたのか、ごくごく飲んでしまって残り少ない。まあ、いっか。
立ち上がりかけて、ふと、自分のわきに転がっている缶を見つけた。
私は缶を掴んで自販機の脇のゴミ箱に投げた。
かこん
「ナイスシュー」
綺麗に入った。もう少しで電車が来るので、私は改札を潜る。
何もない日常を、私は生きていく。
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