第3話『いたずらっことお坊ちゃま』

 ドウドウが来たのは、汽車の従業員たちの寝台車だった。

「この汽車の おもしろいところってさ、ボクたち お客の部屋よりも従業員の部屋の方が広くて豪奢ごうしゃだってところだよねえ」

 ジーンズのポケットに手を つっこんで、独り言をいう。

「おっ、リーレルたちが言ってたのは あそこか」

 ボッチャンの部屋は、2号車へ続く貫通扉かんつうとびらを開いてすぐの ところに位置していた。

「ひきこもったままでも お腹は空くよね。すっかり空になってるよ」

 扉の前に置かれた皿を見て、ドウドウは口角をあげた。リーレルたちの話によると、従業員たちが毎食かかさずボッチャンに食事を与えているみたいだ。

「ぺろり と ご飯を食べられちゃうんだもん。ボッチャン、案外 元気なのかも知れないぞ」

 つぶやいて、ドウドウは姿を消した。


 《変身妖精プーカ》が化けるのは、なにも人間や生き物だけではない。例えばゴムボールやブランコ、洗濯ばさみにだって擬態ぎたいできるのだ。つまりドウドウは、ちいさなほこりになってボッチャンの部屋に侵入した。

「わあ、こいつがうわさの“ボッチャン”だな」

 ドウドウは思った。埃には口がないから、しゃべることができないのだ。

 ボッチャンは狭い部屋の角に置かれたベッドの上に、ひざを抱えた状態で座っていた。

 白に近い金色の髪の毛、澄んだ緑色の瞳、瞳と同じ色のジャケット、革製のブーツ。

「こりゃ、いかにもって感じだな」

 ドウドウは床のうえからボッチャンを観察してみることにした。ずっと ここにいて暇じゃないのかしら。便所に行きたい時はどうするのかしら。疑問は たくさん湧いてきた。が、ボッチャンが見せる絶妙な表情や仕草から、答えは すぐに導き出せた。

 ひたすら ひざを抱いているだけと思われていたボッチャンだったが、扉の外から聞こえてくる物音に対して神経を集中させているのだと分かった。かちゃん、という かすかな音に顔をあげ、足音を聞き、ボッチャンは「いつものひとだ」と息を吐いた。

「なるほど。ああやって人の行き来を かくにんして、こっそり行動してるんだな。ボッチャン、なかなか見どころのある人間らしいぞ」

 ドウドウも心の中で呟いて、いたずらっ子の笑みを見せた。扉の前まで転がって、少年の姿に戻る。

「いつもの人って? 」

「わあ! 」

 ドウドウの出現に、ボッチャンは情けない悲鳴をあげて すっ転んでしまった。

「わわ、お兄ちゃん大丈夫? 」

 ひっくり返った勢いでベッドから滑り落ちてしまったボッチャンは、ドウドウの呼び掛けに答えることができなかった。驚きのあまり失神してしまったようだ。

「わあ、こりゃ、とんでもない臆病者だぞ」

 床に転がったボッチャンを見下ろして、ドウドウは頭をかいた。

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