【番外編】さすらいプーカ様とおくびょうボッチャン

第1話『さすらいプーカと蒸気機関車』

 陽光ふりそそぐ穏やかな草原の真っただ中に、ひとり立つ少年の姿があった。チェックのワイシャツにダウンベスト。ひざがれたジーンズは、この少年がいかに多くの旅路をたどってきたかを物語っている。カレの名前は“ドウドウ”。人間の姿に化けているが、正体はプーカという変身妖精で、その種では珍しく、単独行動を好んでいる。人間界を歩き回るのを趣味とし、妖精たちからは『人間通』として、奇妙がられながらも尊敬されている、名の知れた妖精だ。

「そろそろのはずなんだけど」

 腕時計をたしかめる素振りを見せて、ドウドウは つぶやく。カレは何を待っているのだろうか? さきほども述べた通り、ここは草原のど真ん中だ。右も左も前も後ろも、背の低い緑の草だけが ずっとずっと つづいている。背の高い木もないし、人や妖精と待ち合わせをしているのなら、時計ではなく あたりを見回せばいいのに。

 と、次の瞬間、うなるような突風が吹き荒れた。

「来た来た来たあ! 」

 ドウドウが風に向かって叫ぶ。その声に呼応するかのように、どこからか、ポー という汽笛の音がひびいた。

「あいかわらず時間ぴったり。ミンナには感謝しないとね」

 ビュンビュン 音を立てていた風が急に落ち着き、ドウドウは ふたたび腕時計を見下ろした。驚くことなかれ。カレの目の前には、なんと、正真正銘の蒸気機関車が停まっていたのだ!

 駅も、それどころか線路すらない だだっ広い草原に突如 現れた黒い蒸気機関車。ドウドウが近付くと、それは大人しくカレを迎え入れた。

 風が吹く。扉を閉めた機関車は、 ポー と煙を吐き出し、走り出した。

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