第19話『盗人の町と砂漠の民エシレデート』
遠くから見ている時よりも、その町は、不気味な様子を
家を作る泥のレンガは、砂漠の激しい風で カピカピ に乾き切り、角が削れてしまっていた。風通しの良い家、と言ったら聞こえはいいだろうが、穴凹だらけのこれは、不安を
ソジュンたちは町の中央で解放された。そこには、つい先程までは見えなかった町の人たちで溢れていた。
彼らはソジュンたちを取り囲み、興味深そうに観察している。まるで、値踏みをしているかの様に。
ソジュンたち一行は、身を寄せ合って、集まった人たちを見つめ返していた。と、人々を押しのけて進んでくる、ひとりの男の姿が見えた。
ソジュンたちは、その姿を見て、「あ」と声を上げた。
「私たちの麻袋を奪った人だ! 」
リクが叫んだ。
きのう、ソジュンたちがナイルの神様に祈りを
盗人の男は、町の住民たちの先頭に立ち、腕組みをした。
「“きのう振りだなあ、
ヘテの通訳をソジュンが更に通訳して従業員たちに伝えると、彼らは一気に不機嫌になった。
「“お見受けする” じゃないよ。私たちの荷物を奪っておいて、偉そう! 」
リクが ぶつくさ言った。
「ああ、全くだぜ。俺らの荷物を返せよ」
アダムも ぶつくさ賛同した。
「ええっと、言ってみます」
ソジュンは
「“ああ、返してやるよ”」
あっさり、エシレデートは了承した。
「“ただし”」
「ただし、じゃねえ! さっさと返せよ! 」
アダムが怒鳴ったが、ソジュンはエシレデートに通訳しなかった。
盗人は、「“そこの男は何を叫んでるんだ? ”」と肩を
「“返してやるには条件がある。お前たちも、まさか麻袋が目当てで、ここまで追いかけてきた訳ではないだろう? ”」
それは、そうだ。ソジュンたちは、ジェラーのメモに書かれた、2つ目の品物を探しに来たのだ。
「《向こうが透けてしまう程薄いのに絶対に破れない紙》」
ソジュンが言うと、エシレデートは、「“そうだろう”」と首を大きく上下に振った。
「“俺たちが抱える問題を解いてくれたなら、その紙と共に、麻袋も返してやろう”」
「いいや、納得できねえ」
エシレデートの提案に、抵抗を示したのはアダムだ。
「麻袋の件と、俺らの願いの件は別だ。人の物を盗んでおきながら、“あんたたちの問題を解決しろ”、だと? エシレデートよ。あんたは紙の件で自らを優位だと感じているのかも知れねえが、交渉ってのはフェアで進めるもんだぜ。あんたたちの問題が何なのかは知らねえ。だが、ジェラー王からの頼みの品と張るぐらい難しいもんだってことは簡単に予想がつく。先ずは、俺らから奪った袋を出してからだ。そっから、お前らの望みを言え」
「そうだよ、麻袋は元々、私たちの物だったのに! 」
リクもアダムの意見に同意の様だ。大男のニックも、妖精のヘテでさえも深く
ソジュンは、アダムの言葉をエシレデートに訳した。
すると盗人の表情が一気に黒く淀みだした。
「“交渉は決裂って訳だな”」
エシレデートは
「いいえ。条件がそちらに有利過ぎるので、内容の変更を求めているだけです。僕たちが貴方に、王から頂いた麻袋を盗まれたのは事実。それを僕らの交渉条件の ひとつにするのは、可笑しいのではないか。そう問い掛けているのです」と、ソジュン。「僕らは《ジェラーの願い》を達成する為に、貴方達の問題をお聞きしましょう。例え その問題を解決できなかったとしても、貴方達が失う物は何もないはずです。僕たちも、得られる物が無かっただけで、失いはしない。それが本来の交渉です。しかし貴方が現在、僕たちに持ち掛けている交渉というのは、僕たちへの
ソジュンは相手の目から ひと時も視線を逸らすことなく言った。
「以上のことを理解したうえで、麻袋を返して頂けますか」
「“その交渉には乗らない”」
エシレデートは首を縦には振らなかった。
「どうしてです」
「“お前らの麻袋を手放すこと、それ自体が、俺たちにとって不利になるからだ! ”」
盗人は声を張り上げた。手を横に大きく広げ、「“この町を見ろ”」とソジュンに訴えた。
「“この町を見て、俺たちにお前らを信じ切る心が残ると思うか? 素直に麻袋を返して見ろ。お前らは途端に逃げ出す”」
「そんなことはしません。僕たちは僕たちの目的を叶えにここにやって来ているんですから」
「“そう言って、王の兵隊たちは尻尾巻いて帰って行った! ”」
「僕には
「“そんなに返して欲しければ! ”」
エシレデートは更に語気を強めて言った。
「“自力で奪い返すことだ! 俺たちは そうやって生きてきた。この町の何処かに、隠してある! 見つけてみろ! ”」
「そ、そんな! 」
言い返そうとしたソジュンだったが、エシレデートの熱に釣られた住民たちの歓声に、掻き消されてしまった。
結局ソジュンたちは、《向こうが透けてしまう程薄いのに絶対に破れない紙》の交渉をできないまま、盗まれた物の、宝探しをさせられる羽目になった。
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