第12話 食堂にて(1)

気づけばもう外が暗くなってきた。そろそろ夕食の時間だ。


柳さんと朝に会ってから魔法も使えるようになったし、学んだこともたくさんあるしその分疑問もある。色々と話したいことも聞きたいこともあるし、居てくれれば良いのだが…。そう思いながら食堂へ向かった。



食堂の騒がしさとともにできたての食事の良い匂いが漂ってくる。中に入ってなんとなく周りを見渡していると、すぐ左の柱のところに柳さんが居た。待っていてくれたのだろうか。


軽く手を上げて声をかけながら近づくと、柳さんもこちらに気づいたようで「よう!」と気さくな挨拶をしてくれた。


「今朝ぶりだな。修司君だったか。どうだ?魔法は使えたか?」


「ええ、おかげさまで。まだ全然制御ができませんけどね。」


今日の昼にしてしまった失敗を思い出して少し苦笑いしながらそう答えると、柳さんは少し驚いたようだった。


「一日でそこまでできるのはなかなか珍しいぞ。もしかするとお前さん適性があるのかもな。何人かの転生者のことしか知らないが、それでも習った初日で魔法が使えたやつは少なかった。」


「いえいえ教え方が良かったんですよ。最初に魔法に触れるならあの方法が最適でした。」


「おいおい褒めても何も出ないぞ?そもそもあの方法は俺がされたのを見よう見まねでやっただけだしな。

ただまあ魔法を知らない状態からの習得という状況自体がだいぶ特殊だから、それができれば魔法が得意ってわけでもないかもしれないけどな。」


むしろ今から習得を目指すというのだから周囲の人よりできないことになる。例え本当に適性があったとしても慢心はしないだろう。


「じゃあ立ち話もなんだし飯食うか。」


「そうしましょう。俺もお腹が空きました。それとあれから色々知ったことがあるのでできれば色々聞かせてもらっていいですか?」


「おう、俺に答えられることなら何でもとは言わないが答えてやるぜ。なんたって兵士としての守秘義務は守らないといけないからな。」


そうして今朝と同じようにテーブルにつくが、そこまでの間柳さんは色んな知り合いに声をかけられていた。やはり顔が広いようだ。


俺も早くケルバー語を覚えて人付き合いしないとなぁ。人付き合いは元の世界でも苦手だったが、この世界でやりたいことをやるには人脈が必要そうだ。まあそうじゃなくても一昔前みたいに人付き合いが重要な社会構造だろうし、避けては通れないのだろうが。


「いきなり質問タイムと行っても良いが、まずは今日何したか聞こうか。」


「そうですね。あまりこちらばかり情報を引き出すのは気が引けますし。」


そう言って俺は今日したことを話し始めた。魔法が使えるようになったこと、先生と今後の予定が立ったこと、魔法について知ったこと、この世界について知ったことなどなどだ。


「二日目にしちゃあ色々やったなぁ。急に新しい環境に来たっていうのに疲れないか?」


「確かに疲れますがそれ以上に俺は新しいことを学ぶのが好きなんですよ。特に魔法はこれから何を調べようかワクワクしてます。」


「そりゃすごいこった。確かに魔法は転生者からすると惹かれるものがあるよな。それにまだまだわからないことがたくさんあるって研究者の知り合いが楽しそうに語ってくれたからな。ま、俺には向かなかったがな。」


そう言って柳さんは豪快に笑いながらグラスの飲み物を飲み干した。お酒とかだろうか。


「俺も落ち着いたら研究者とお話してみたいなぁ。」


「俺が取り次いでやろうか?ただあいつらも忙しいみたいだからな…。」


「ありがとうございます。でも俺も研究者になるつもりなのでそのうち会うことになると思いますよ。」


「そうか。頑張れよ!まあまずはケルバー語だがな。」


何をするにもまず言語。都合良く日本語が使える異世界だったら苦労しなかったのになぁ。


「それで、聞きたいことってのは何だ?」


「今日色々学んだ中で、わからなかったわけではないんですが気になったことがありまして。実体験を聞けばよくわかるんじゃないかなと。」


「百聞は一見にしかず、だからな。それで?」


「柳さんは亜人や獣人に会ったことってありますか?」


「あぁあるぞ。何ならこの町でも探せば居るはずだ。同じ兵士で友達の亜人もいるしな。」


思ったより普通にいるのか。いや、ケルバーが親亜獣人国だからというのもあるか。


「彼らについて教えて欲しいんです。どんな種族がいてどんな特徴でどんな文化を持っているのか。もちろん本を読めばわかることも多いですが、実際に会ってどうだったのかを。」


「なるほどな。まあ俺も全部知ってるわけじゃないが、数種族教えてやろう。」


そう言っていくつか例を出してくれた。


まずは長命な種族。

運動能力は優れていないが、知能は人間と同等かそれ以上で、容貌も比較的人間と似通っている。別に植物というわけではないが、植物に親しみ、ゆっくりとした生き方をするのだそうだ。

もしかしてエルフじゃないかと途中で口を挟んだら、大体そういう感じの種族という認識で合っていた。話してみた感じ、過去の迫害もあり人間はあまり好きではない者も多いが、敵対的ではないらしい。

生体系の魔法に造詣が深く、柳さんはそこで学んだことを兵士として生かしているらしい。この感じだと種族毎に優れた技術があるようだし、いずれ調査して回るべきかもしれない。


次は言ってしまえばドワーフだった。

身長は低いがその分筋肉や骨格に優れ、また金属加工については量こそかなわないものの質や高度さでは人間より優れている。

こっちは柳さん曰く気の良いやつだそうだ。しかし金属加工といえば電気技術には欠かせない感じだな。

やはり種族間で情報共有ができれば色々と技術も進歩しそうだ。戦争により発展する技術もあるとはいえ、今はその影響が悪影響にしかならない時代だな。


「まあ他に聞きたいこともあるだろうしこんなところにしておくか。」


「ありがとうございます。次なんですが魔物や獣ってどんな感じですか?こっちに来た直後でかいオオカミに襲われたのであんな感じかなとは思うんですが。」


「この辺ででかいオオカミって言ったら、あー日本語だとシロオオカミか、あいつあたりか。」


「多分それです。」


「そうか、そいつは災難だったな。ちなみに俺はあいつなら倒せるぜ。ま、兵士なら撃退できるやつも多いしそこまで自慢することでもないがな。

魔法が使えるとパワーバランスは大きく異なってくるんだ。俺ら兵士は魔法で身体能力を向上させるのがメインで、魔法兵士は魔法自体で攻撃する。」


思った以上にこの世界の人は強いな。やはり魔法があるおかげで人間でも獣に戦闘で追いつけるのだろう。


「身体能力向上で魔物と渡り合えるまでになるのは驚きです。」


「いや、獣はまだ対処できないこともないが、魔物は厄介だぞ。奴らには知能がある。だからこそ戦闘を避ける場合も多いが、一方で戦闘になると既に詰んでいる状態になっちまうことも多い。戦略を立てて俺たちを誘い込んで狩るんだ。」


「この世界は知能を持った生物が多いんですね。魔物とは出会わないように移動には注意することにします。」


「それが良い。知能っていうのは厄介なんだ。俺の兵士仲間には魔物にやられて腕を持って行かれたやつもいる。例え自分が強くてもそれはあくまでお互いが万全の状態で戦ったときの結果にすぎない。強さなんて状況でいくらでも覆るって事を俺はあのとき思い知ったね。」


思わずゾッとしてしまったが、この世界で生きていくとはそういうことなのだと再認識した。これは思った以上に警戒していかないといけなそうだ。


しかし知能を持った生物が多いのはやはり魔法の影響だろうか。魔法が使えればそれだけで有利だ。知能と魔力の相関関係から考えると、こうした進化をしても不思議ではないか。


「あぁそういえば一つすごい種族がいるな。俺も会ったことはないんだが。」


「一体何ですか?」


「ドラゴンだ。」

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