幻想世界 ②
「………」
窓から差し込む日差しが眩しい、とある一室。
生活感に溢れているその場所は、おそらくアパートかマンションの一室だろうということはすぐに分かった。
そしてそこにいるのがあの
「これは、スマートじゃないな」
以前見たときは軽薄そうな男だと思っていたが、一人で黙々と仕事に打ち込むその姿はどこまでもストイックに見える。その表情にも声色にも一切の不誠実さは感じられない。案外これが恭介の本来の姿なのだろうか。
恭介は一度大きく腕を伸ばして声にならない声を漏らすと、椅子から立ち上がって何やらストレッチのようなものを始めた。デスクワークだと身体が凝るのかもしれない。
そんなとき、机の上に置かれていた彼の携帯が鳴り響いた。
「もしもし母さん?どうしたの」
仕事中に電話に出るのもどうかと思ったが、緩い会社なのかもしれない。まぁどうでもいい。
「こっちは普通だよ。———は?彼女とかいないってそんなの。興味ないし」
彼女、というのは以前会っていた
「お見合い?いやそんなのいらないって。結婚とか家族とか、そういうのは今はちょっと。仕事忙しいし」
恭介は心底うんざりした表情でそう言った。
「あぁ、まぁ、考えとく。じゃあ」
通話を切った恭介は携帯をやや乱雑にベッドに放る。その所作一つ見ても、彼が苛立っているのは明白だった。会話の中でなにやらよく分からない言葉が出てきていたがそれのせいなのだろうか。
「はぁ……」
恭介は椅子に座りなおし、背もたれを倒すとそのまま椅子ごと回転させた。背もたれが傾いた分、その視線は部屋の天井を向いているが、どこか上の空にも見えた。
しばらくそうしていると、またも携帯が鳴り響く音が聞こえた。
「もしもし彩音?どうしたの。———あぁ、旅行の件ね!うん、いまこっちでも調べてるけど、とりあえず混浴の旅館を———いや冗談だって」
件の彼女からの電話だったようだが、明らかに先程の電話の相手よりも声色が違う。以前見たときと同じ、明るく朗らかなものだった。
「うん。———うん、分かった。じゃ今週末会ったときまた話そう。じゃあね」
恭介は電話を切ると、再びパソコンの作業に戻る。その後やたらスマート、スマートと独り言を言っていたが、多分口癖なのだろう。
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