悪役令嬢
お姉様が差し出してくれたこの手を私は本当にとっていいのだろうか?
私は一度この手を突き放したというのに……
リオン様と話していた時はお姉様ともっと一緒にいたいと言えたけど、家族にと言われると躊躇ってしまう。
あの家に私の居場所は……
「はぁ、またいろんなことをグダグダ考えているんだろう?」
さっきまでずっと黙っていたレオス様が声をかけてくる。それにしてもグダグダって酷いと思うのですけど…
「シェリーは例え姉妹でなくなったとしても、義母と養子の関係になったとしても、お前と一緒にいたいと望んだ。そして、今日、お前に気持ちを伝えた。それで? お前はどうするんだ?」
「私、私は……」
「難しく考える必要はねぇよ。貴族だ、平民だなんて関係ない。お前が…アリシアがどうしたいかだ。それだけをこの場で言えばいいんだよ」
「私は……私だってお姉様ともっと一緒にいたいです! もっと普通の姉妹のようにいっぱいしゃべって、ご飯も一緒に食べて、おやつだって…分け合って……けど……できないじゃないですか! 私は……私の親は…二人ともアーシャ先生を……だから、私は家族として、あの家に帰るわけには……」
「アリシア……」
「ごめんなさい…お姉様…お気持ちはとても嬉しいです。でも……私は……」
私にはあの家に帰る資格はない。お姉様ともっと一緒にいたいのは本当だけど…私は帰ることはできない。きっと、誰も望んでなんかいない。あの場所はお姉様だけの場所なんだから。
「…アリシア…私も同じ気持ちよ。もっと話したいことだってある。それに…お母様の話も聞いてみたいと思ってる。けど…アリシアがそこまで言うのなら仕方ない……か。――ジャン、アリシアを担いで」
「はぁ、結局そうするんですか?」
「仕方ないじゃない。私のせいだけど、アリシアが帰らないって言うんだもの。なら無理矢理連れて帰るしかないじゃない」
「なっ!?」
お姉様の掛け声と共に私はジャンの肩に担がれてしまう。それも物みたいに……まるでそう、初めて会った時のソファーのように……って、そんなこと考えている場合じゃない!
「ジャン! 降ろして! お姉様! どういうことですか!?」
私が必死に暴れてもジャンはびくともしない。それに、全く降ろしてくれる気もしない。
「アリシア、私初めて会った時言ったよね。私は悪役令嬢だって」
「だから、それはお姉様の勘違い「勘違いじゃないわ」……えっ?」
「いえ、アリシアの推測が間違っているという話じゃないの。実際、私は途中までしか知らなかったし、アリシアの話を聞いて納得もした」
「それなら!?」
「だけど、それが何? 小説での私はヒロインかもしれないけれど、現実の私はそうじゃないわ」
「…どういう」
お姉様が言いたいことが何一つわからない。紛れもなく私が悪役令嬢の役割を担っていたはず。誰が何を聞いても、お姉様を悪役令嬢と言う人なんているはずがない。
「だって、私はこれからアリシアが嫌がっているのにも関わらず家に連れて帰ろうとしているんだもの。あなたの意思を聞いた上で……ね。それでも私は自分の思いを優先するわ。だから、私はアリシアにとっての悪役」
「……私にとっての悪役」
「そう。悪役からは逃げれないんだから。諦めなさい!」
「……だから素直に言えと言ったんだ。シェリーは始めからお前を諦めるつもりなんてねぇよ。お前がシェリーの顔なんて見たくないと言わなかった時点で結果は同じだ。諦めろ」
「……レオス様……」
お姉様も、レオス様も……リオン様も。こうなるように……私一人、いろんなことをグダグダと考えてバカみたいじゃないですか……
「お前が気にしている侍女たちのこともシェリーが解決済みだ。シェリーの様子を見て、話を聞けば、お前の言動と行動が合っていなかったことにすぐに気づいて、お前に謝りたいと言っている奴もいる。だから、何も気にせず帰っていいんだよ」
レオス様が優しく語りかけてくる。
あの家を無茶苦茶にしたのに、それでも私が帰ってもいい?
そんなの…私に都合が良すぎじゃないですか……
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